其ノ肆 ページ6
神里家の前に着くと子供たちがまたワイワイ騒ぎ出す。
「おっきい〜!」
「しゃぶぎょーのお兄ちゃんここに住んでるの?すごーい!」
「その…社奉行様、お邪魔して良いんですか?」
社奉行様は神里家当主。暇なわけが無い。
きっと先程の散歩だって少し歩いたら帰るはずだったのだろう。
「問題ないですよ。今日は公務が順調に進んでいまして。まああまり長く遊ぶことは出来ませんが」
長く遊べなくても忙しい社奉行様の時間をわざわざ割いて遊んでくれるだなんて。
今まで話したことがなかったけれどとても優しい方なのね。
「ありがとうございます。子供たちも喜んでいます」
「そういえば貴方の名前を聞いていませんでしたね。お名前、聞いてもいいですか?」
名前…か。
苗字を言えば私が志倉家の人間だとバレてしまう。
お父様が刀を持つ野蛮な娘の私をあまりよく思っていない為、私が志倉家の人間としてなにかすることは1度もなかった。
お父様は志倉家にこんな野蛮な女がいることを知られたくないのだろう。
私の顔をみて志倉家の長女だと分かる人など居るのだろうか。
子供たちですら私が志倉家の人間だと知らない。
まああの子たちは志倉家の存在なんて知らないだろうけれど。
「私はAです」
…苗字は言えなかった。
子供たちと遊んでいるこの時間だけは志倉家の人間だということを忘れていたかった。
社奉行様にも、知られたくなかった。
家に帰ればお父様の冷たい目線が待っているし、使用人ですら私をよく思っていない人がいる。
「Aさんですか。素敵な名前ですね」
社奉行様は笑顔でそういうと子供たちに呼ばれて屋敷の奥に行ってしまった。
名前を褒められたのは心做しか嬉しかった。
この名前は、お母様が私にくれたものだから。
「Aねえちゃんー!」
「なにしてるのー!」
「はやくはやくー!」
子供たちに呼ばれ、私は足早にみんなの方へ向かった。
171人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
椿(プロフ) - ありがとうございます〜!更新頑張ります! (8月6日 14時) (レス) id: bc50e09104 (このIDを非表示/違反報告)
夜空ゆーたお(プロフ) - 続き楽しみです! (8月5日 1時) (レス) @page20 id: 9a1d60d013 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:椿 | 作成日時:2023年7月16日 19時