その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ43)

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エピローグページ43

「そういえばここ、氷柱なんて出来るのね。久しぶりにみたわ」

雪うさぎを作り終えたAは「城下町から少し離れているからかしら？」と呟き、軒から下りている氷柱に目を向ける。

「私もかなり久しぶりにみたよ。一気に景色が冬だね」

「そうね、綺麗だわ」

雪と氷柱に囲まれAはうっとりする。

そんな姿をみて綾人は出会って間もない頃のAの言葉が頭によぎっていた。

『私、冬が好きなんです。真っ白な雪景色は心を浄化してくれる気がするから』

「Aは何故、雪景色は心を浄化してくれると思っているんだい？」

「え？急に何よ」

唐突に質問されてAは少し困惑する。

「出会ってまもない頃、雪景色は心を浄化してくれる気がするから冬が好きだと言っていたじゃないか」

綾人の説明を聞いてAはようやく理解したようだった。

「あぁ、そんなことも言ったわね…」

Aはどう伝えようか少し頭を悩ませてから口を開く。

「うーん、この目に映る景色が白に染っていると何だか何も考えなくていいんじゃないかなって思えるの。それに…何より雪景色って美しいじゃない」

Aはそこまで言うと少し笑って綾人に問いかけた。

「綾人さんも綺麗な景色を見ると心が浄化されるような気分にならない？」

「…どうだろうね」

綾人は今まで雪景色だけをみて見惚れたことはあまり無かった。

でもこの氷柱の落ちる雪景色を背に立つAはとても美しい。

こんなにこの景色が似合う女性はA以外いないと、そう思った。

「まるで雪寄草のようだね…」

綾人はぼそっと呟いた。

「ん？なんて言った？聞き取れなかったわ」

「なんでもないよ」

綾人は不思議そうに首を傾げるAに微笑む。

雪寄草。

秋に綺麗な花を咲かせ、冬には霜柱のような結晶の氷の花を咲かせる。

雪寄草の咲く場所には氷柱が下りると言われている。

「A。もう一度口付けをしてもいいかい？」

綾人は愛おしそうにAを見つめて頬に手を伸ばす。

「えっまた？そろそろ誰か起きてきてもおかしくない時間だけど…」

Aはさすがにそろそろ人に見られると危機感を覚える。

「大丈夫だよ」

「…分かったわ」

Aは綾人の視線に負け、そっと目を閉じる。

綾人は嬉しそうに笑って優しく口付けをした。