その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ42)

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其ノ参拾玖ページ42

「ちょちょちょちょ綾人さん!?ここ、外よ!?」

慌てて引き離そうとするけれど綾人さんは私をがっちり掴んで離さない。

ずっと黙って私の胸に顔を埋めている。

…疲れてるのかしら。

さすがに朝が早いしまだ誰にも見られることはないかな。

私は綾人さんの背中に手を回し、その頭に手を置いた。

「お疲れ様。最近ずっと忙しそうにしていたものね」

綾人さんの頭を撫でていてどれくらい経っただろうか。

綾人さんが不意に顔を上げて口を開いた。

「A」

「ん？」

「ありがとう。愛しているよ」

綾人さんは幸せそうに笑ってそのまま私の唇にちゅっと口付けをした。

「…へ」

何をされたか分からずぽかんとしてしまう。

「えちょっなにしてるの!?」

少し遅れてされたことを理解し頬が火照る。

「ふふっ接吻だけでそんな反応をしていてはこの先やっていけないよ？」

綾人さんは普段はしない悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

「か、からかってるでしょ!?」

ぐいっと体をおしのけザクザク雪を踏み先程作った雪うさぎの方へ向かう。

綾人さんにそっぽ向き地面の雪を集めてまた雪うさぎを作り始める。

「おや、怒らないでおくれ」

綾人さんもすぐ付いてきて隣にしゃがみこみ、眉を下げて私と目を合わせてくる。

「すまないね、先に許可取った方がよかったかい？」

「別に、そういう訳じゃ…」

優しく見つめてくる綾人さんから目を逸らして答える。

「ただ、てっきりそういうのは結婚してからするものだと思ってたから」

心の準備とかを全くしていなかっただけ。

自分では見えないがきっと今の私の耳は真っ赤だろう。

「だから、別に謝らなくていいわ。その、全然、嫌ではないし…」

照れ隠しに雪うさぎ作りを再開すると隣で深く息を吐く音が聞こえた。

「…どうかした？」

「いや、トーマからも言われていたし本当は結婚するまで待とうと思っていたんだ」

…え？

「でも我慢出来なくてね。だから手を出してしまったことはトーマには内緒にしておいてくれないかい？」

綾人さんはそう言ってふふっと笑った。

笑い事で済ませていいの…？

「綾人さんって意外と適当なのね」

「別に結婚する前に貞操を失ったからって私が気にしないのだから問題ないだろう？」

この人…トーマに隠せって言ったくせに開き直ってるわ。

「ならトーマにバレても大丈夫じゃない？」

私は先程の仕返しをするように笑った。