その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ40)

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其ノ参拾漆ページ40

神里家へ来てから少し経った。

私は今社奉行神里家の当主の忙しさを思い知っている。

今まで週に何回か綾人さんが時間を作って会いに来てくれていたのが嘘かのように会えない。

今週は出張は無いはずなのに帰って来るのが遅すぎる。

綾人さんの帰りを待とうと何度も試みているが起きれていて試しがない。

しかも！私は朝起きるのはかなり早い方なのにそれでも私が起きる頃にはもう綾人さんは家を出ている。

最近の綾人さんはずっとこんな感じだ。

私が来たばかりの頃はここまで忙しそうにはしていなかった。

今週は1回も顔すら見れてない気が…。

このことをトーマに嘆いたら、

「今は年末年始に向けてやらなきゃいけないことが大量なんですよ。年末年始の社奉行は忙しいどころじゃありません」

と教えてくれた。

なんだかみんなバタバタしていて本当に忙しいのが伝わってくる。

でもいくらなんでも働きすぎだ。

年末年始が終わるまでの辛抱とはいえ、恐らく殆ど寝ていないだろう。

私も事務仕事を色々貰ったからこれで少しでも綾人さんの負担を減らせたらいい。

机の上にこんもり置かれた書類を見つめる。

…にしても量が多い。

私が来る前はこういうのも全部綾人さんが？

今はまだ若いからいいだろうけど将来本当に倒れてしまいそう…。

「お姉様？浮かない顔をしてどうかなさいましたか？」

ため息をついて書類に手を伸ばすと急に声をかけられて驚く。

「えっ？あ、綾華。うーん少し考え事というか…」

「もしかして、最近お兄様にお会いできていないからですか？」

「えぇ、まあそんな感じね。いくらなんでも働きすぎだと思って体の心配していたところよ」

綾華は眉を下げて困ったように笑う。

「今年は鎖国令も終わり、賑やかな年末年始になりそうなので社奉行は今までより忙しいんです。もしお姉様がいらっしゃらなかったら大変でした」

鎖国令がやっと終わったからこの忙しさなのか。

「へぇ。外国の人が稲妻で年越しをしたりするの？」

「ええ。離島で花火を上げたり賑やかにやるんです」

外国の人が沢山来てくれたらいい経済効果になりそうよね。

「それは楽しそう。じゃあ社奉行は年越しも仕事があるのね」

「そうです。でも年越しの瞬間は落ち着いて年を越せると思いますよ。」

「そうなの？じゃあみんなで仲良く年越ししたいわね」

「はい！」

綾華は私の提案に笑顔で応えた。