その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ35)

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其ノ参拾弐ページ35

神里家へ持ってきた荷物はそこそこの量だったけれど、社奉行の人が手伝ってくれたおかげで部屋の片付けはサクサク進んだ。

娯楽小説を全部本棚に入れてもらった後残りは自分でやるからと伝えて1人で片付けを再開した。

小物をしまったりしていると襖の外から名前を呼ばれた。

「Aさん、いらっしゃいますか？」

襖を開けると以前神里家に来た時にも会った金髪の男の人が立っていた。

「はい、なんでしょう？」

「まだ片付けの途中でしたか？お嬢も戻ってきたので挨拶をしようかと思ったんですが後での方がいいですかね」

幸いもう片付けはほとんど終わっている。

というか私の荷物の大半は娯楽小説だったので割ととっくに終わっていると言ってもいい状況だった。

「大丈夫です。もうほとんど終わっているので」

「そうですか、良かった。お嬢は向こうにいます。あ、俺の自己紹介がまだでしたね、俺はトーマ。神里家の家司です。俺はただの家司なので敬語はやめてくださいね」

そう自己紹介をしたトーマはとても話しやすそうなオーラを放っていた。

神里家の家司なら家で使用人に話すような感じでいいのかしら。

「分かったわ。知っているだろうけど私からも一応。Aよ、これからよろしくね」

「よろしくお願いします。お嬢のとこまで案内しますね」

トーマの後をついて行った先には鳴神島に住む人なら誰でも知っているであろう『白鷺の姫君』が居た。

「はじめまして。神里綾華と申します。私は義妹なので、是非本当の妹のように接して頂きたいです」

綾華は私を見るなりふわっと笑顔になって挨拶をした。

「Aよ。私も是非仲良くしたいと思っていたわ。よろしくね、綾華」

敬語は使わずに綾華、と名前を呼ぶと嬉しそうに笑った。

嬉しそうな笑顔はどこか神里様に似ていて血の繋がりを実感する。

「それと…お願いがあるのですが…」

綾華は緊張した表情をする。

「…お姉様、と呼んでも宜しいでしょうか？」

私が少し驚いた表情をするなり綾華は焦ったように話し出す。

「その、血の繋がりはなくてもAさんはお兄様の婚約者ですし、お姉様に憧れがあったというのもあって…」

「違うのよ、ごめんなさい。綾華がそんなに私と仲良くなりたいと思ってくれていると思っていなくって驚いてしまったの。是非お姉様と呼んで欲しいわ」

私が言うと綾華は一気に笑顔になる。

表情豊かな綾華を可愛いなと思いながら微笑んだ。