その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ33)

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其ノ参拾ページ33

「それではすぐ荷物をまとめて明日にでも神里家に来ましょう」

「明日!?」

神里様はにっこり笑顔でそう言うが、流石に急すぎる。

「早い方がいいでしょう？荷物は家臣に運んでもらいましょう」

拒否はさせないという圧力がすごい笑みを浮かている神里様にタジタジになってしまう。

「そう、ですね…？でも私凄い量の娯楽小説があるんですけど…」

部屋に置かれた大きい本棚にびっしりと詰められた娯楽小説に目を向ける。

「しっかり置くところを用意しますから安心してください」

私が引っ越す為に躊躇することは全て排除すると言わんばかりの勢いで言う神里様に思わず笑みがこぼれてしまう。

「ふふっ、それは有難いです。じゃあ荷物をまとめておきますね。お父様は大丈夫なんですよね？」

神里様のことだからきっともう話をしてあるんだろうけど。

「ええもちろん。では明日、迎えに行きますね」

「はい、お待ちしています」

お互いに笑い合い、神里様はそろそろ公務があるからと部屋を出ていった。

それじゃあ私も張り切って荷物をまとめようと気合いを入れたけれど…この娯楽小説たち、どうやって運ぶのかしら。

…とりあえずそれ以外のをまとめて、その後考えよう。

考えることをやめて小物や着物をまとめる作業から始める。

いくら神里様の家臣の人が運んでくれるからといって家に置いていけるものは置いていきたいし…。

頭を悩ませながら仕分けを進める。

一通り仕分け終えてまとめていると襖の外から声が聞こえた。

「お姉様ー？なにしてるんですかー？」

「私は荷物をまとめているだけよ。どうかした？」

襖を開けると露が不思議そうに立っていた。

「神里様がお帰りになっても部屋から出てこなかったのでどうかしたのかなって。お姉様どこか行くのですか？」

「明日から神里家に越すことになったの。神里様、今度露も遊びに来ていいって仰っていたわ。」

「明日から!?」

さっきの私と同じ反応ね、そりゃあそうだけれど。

「ふふっ、私も神里様に言われた時は驚いたわ」

笑っている私とは裏腹に露は少し悲しそうにしていた。

「じゃあ今より会えなくなっちゃうんですか…？」

その言葉を聞いて露は寂しがっているのに、私はなんだか嬉しくなってしまった。

「…そうね。でも、いつでも遊びに来ていいし、そんなに遠くないしいつでも会えるわ」

露は私と会えないことを寂しいと思ってくれるんだなって思えたから。