その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ29)

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其ノ弐拾漆ページ29

次の日。

神里様が我が家にやってきた。

お出迎えした時に少しお話できるかななんて期待していたけれど、当主同士で話さなくてはいけないことがあるからと早々にお父様のところへ行ってしまった。

我が家に神里様が来るのは露と縁談があると紹介されたあの日以来だ。

露に神里様との話を今まで全くして来なかったので神里様が来てすぐお出迎えをしに行った私をみて色々察したようだった。

神里様がお父様と話に行ってしまったあとに目をキラキラさせて問い詰めてきた。

「お姉様！もしかして、そういうことですか！？」

さすが若い子、恋バナが大好きだ。

このノリノリの妹はどうすれば…。

「そういうことってどういうことよ、もっと分かりやすく言ってちょうだい」

「お姉様ったら照れ隠しです？神里様は今日なんのお話にいらっしゃったのですか？」

ニヤニヤ笑う露をみて、ため息をつく。

「別に照れてないわ。神里様は…私との婚約の話に…」

露は私が言いきらないうちに予想が当たった喜びと姉に遂に婚約者が出来たという2つの意味を込めた黄色い歓声をあげる。

自分で照れてないと言ってはいるものの自分の口から婚約という言葉が出ている事実に少し照れくさくなる。

「お姉様、いつの間に神里様と距離を縮められたのですかー？詳しく教えて欲しいです〜」

体をくねくねさせながらねだる露を横目にみて歩き出す。

「神里様とはたまたま外で会ってそこからたまに話す仲になったくらいよ。特別なことは何もないわ」

「特別なことが何も無くて婚約するわけないじゃないですかー！この間だって忙しい神里様が時間を割いてお姉様の為に助けに来てくれたんでしょう？ただのたまに話す人にそんなことしませんよ〜」

愛されてますねっと少しからかうような笑みを浮かべる。

とどまることを知らずペラペラ話し続ける露に呆れながら本棚に手を伸ばし娯楽小説を取る。

「もう質問攻めはその辺にしてちょうだい。私は神里様のお話が終わるまで娯楽小説読んで待ってるから」

娯楽小説を読み始めた私をみて露はちぇーっと口を尖らせる。

「もう少し話してくれたっていいじゃないですかー。また話す気になったら話してくださいねー」

露はいつでも聞きます！と親指を立ててから去って行った。