その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ3)

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其ノ壱ページ3

「…ふぅ、今日のランニング終わりっ」

いつものランニングルートを走り終わり、一息つく。

次は剣術の練習。まずは素振りだ。

木刀を持ち、前に敵を想像して構える。

「……………………よし」

集中して木刀を振る。

本来なら誰かに相手して欲しいところだが、生憎私の相手をしてくれる人はいない。

でもずっと1人で鍛錬していても意味が無いしランニングついでに魔物狩りもしている。

実践は大事だし、誰かが魔物に襲われても嫌だもの。

そんなことを思いながら素振りをしているといきなり声をかけられた。

「Aお嬢様。そろそろ朝餉のお時間ですよ」

「もうそんな時間？ありがとう、直ぐに行くわ」

Aお嬢様。使用人は私のことをそう呼ぶ。

何故なら私は稲妻で勘定奉行の座を狙う志倉家の長女だからだ。

昔は勘定奉行だったとか父は言っていたけれど遠い昔のことらしい。

現在の勘定奉行の柊家とは一応親戚。

まあ当然のように仲は悪いしほとんど会わないけどね。

居間に着くと既に妹がいた。

「おはようございます、お姉様。今日も早起きでしたね」

自分の席へ座ると声をかけてきた。

「おはよう露。なんか目が覚めてしまうのよね、露も昨日夜遅くまでお琴の音が聞こえていたわよ」

妹の露は本当に姉妹かと思うほど正反対で、お筝を上手に爪弾く。

私もやってみたけれど全然上達せずすぐに飽きてしまった。

「えぇ！？お姉様の睡眠を邪魔してしまいましたか…？ご、ごめんなさいつい夢中になって………」

「ふふふっ露のお琴は邪魔になんてならないわ。とっても上手だもの。でもあんまり夜更かしは駄目よ？」

「はいお姉様」

褒められたことが嬉しかったのか、顔が緩んでいる。

そんな露を見て可愛いなあとつい口元に笑みを漏らす。

…趣味も性格も女の子らしい妹に羨ましいという感情を持ってしまったことは内緒だ。