その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ18)

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其ノ拾陸ページ18

あの後もう少し時間を潰してから家に戻った。

いつもよりも遅い時間だったのですぐに夕餉になり、露と2人で話しながら食べた。

今日は八重堂で以前から気になっていたけど買っていなかった娯楽小説を買えたので支度を済ませて布団の上で転がりながら読む。

暫く読んでいると廊下からドスンドスンと大きな足音が聞こえてきて何事かと起き上がる。

部屋の襖ば大きな音を上げて開けられるとお父様が怒りに満ちた顔でこちらを睨んでいた。

「A。お前、もしかして神里様と会っているのか？」

低い声で言われ怒っていることを察して焦る。

なんでお父様がそれを知って………

「そ、それは…！」

私が口篭るとお父様は大きな声で怒鳴る。

「ふざけるな！露との縁談があることをお前も知っているだろう！妹から婚約者を取るつもりなのか!?」

「違っ…！私はその話を聞く前から…！」

慌てて説明を試みるとお父様は手を伸ばし私の頬をぶった。

「っ！」

「うるさい!!ただでさえ俺の求める娘になれないくせに婚約の邪魔もするのか!?この出来損ない!!」

頬に手を当てて呆然とお父様を見つめる。

「二度と神里様に会うな。次こんな事があれば縁を切るぞ」

「…はい。お父様」

目を伏せて返事をする。

お父様が部屋から出ていった後私は1人で呟いた。

「…確かに、妹の婚約者になるような方と会うなんていけないことよね」

でも神里様断るって言ってたのだから別に会ってもいいんじゃ、と思ったけれどこれ以上お父様を怒らせると本当に縁を切られてしまう。

結婚の見込みがない私が縁を切られたら生活が出来なくなってしまう。

…それにしても出来損ない、か。

ジンジン痛む頬をさすりお父様に言われたことについて考える。

お淑やかな女性ってなんなのだろう。

私は家にいるのはすぐに飽きてしまって、体を動かすのが好き。

こういう女は男の人は好きじゃないのか…。

枕に顔を沈める。

神里様の妹の白鷺の姫君だってとってもお淑やかで上品よね。

神里様もきっとああいう女性が好みなんだろう。

でも白鷺の姫君は小さい頃から剣術を学んでいるらしいけれどそれは家の考えの違いなのかしらね。

そういえば子供たちの所に行くと神里様も来てしまうからもう行けないわね…。

娯楽小説の続きを読む気力も失せてしまい明日は暇になるなあと思いながらそのまま眠りについた。