其ノ拾弐 ページ14
「私がこの婚約に前向きでない理由はなにも露さんのせいではありませんよ」
「じゃあ何故…」
神里様はまだ若いけれど次期当主が居なければ神里家は続かなくなってしまう。
結婚する気がないわけではないはずだ。
「そうですね、私は志倉様の行動で少し疑問を持ったところがあるんです」
「疑問、ですか?」
何のことか分からなくて首を傾げる。
「Aさんは恐らくまだ婚約話がないでしょう?長女なのにも関わらず。なのに私との婚約は貴方ではなく妹の露さんだった」
「私に婚約話がないとは限らないじゃないですか」
結婚の夢は捨てようなんて思っていたけれどいざ婚約話が妹にはあって私には無いとはっきり言われると悲しくなってしまう。
「それもそうですが、あの時の貴方の表情をみていれば分かりますよ。それに今までの貴方は自分を卑下することが多かった」
私そんな表情に出てしまっていたかしら…。
思わず頬に手を置く。
「露さんは少し他人を優先的に考えてしまうような性格のようでしたが、あまり自分を卑下する人ではありませんでした」
そこまで話すと神里様はまっすぐ私を見つめる。
「私は自分を卑下してしまうのは性格ではなく、育ってきた環境のせいだと思っています。恐らく露さんとAさんは少し育ってきた環境、置かれていた状況が違うのではないでしょうか?」
「それは…」
お父様は確かに私と露で扱いに差があった。
…お母様が居なくなってからは特に。
私が何も言えずにいると神里様は話を続けた。
「私は家族が大切です。家族には幸せに生きていて欲しいと思っています。結婚をするということは相手の家族とは親戚になるということ。神里家と繋がりを持つ家は家族を大切にする家がいい、そう思っているんです」
家族を、大切に…。
つまり神里様が婚約に前向きでない理由はお父様ということ?
「先程質問はしましたが、別に無理に話して欲しいわけではありません。…まあ、話してくれるのであれば嬉しいですが」
志倉家では昔ながらの男尊女卑の考え方が根強く残っていて、お父様自身も男らしさというものに囚われている。
神里様のような考え方にお父様もなってくれたら…。
そんな期待の気持ちが心に浮かんできて、私は覚悟を決めて口を開いた。
神里様になら今まで誰にも話してこなかった私の気持ちを、伝えてもいいと思ったから。
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椿(プロフ) - ありがとうございます〜!更新頑張ります! (8月6日 14時) (レス) id: bc50e09104 (このIDを非表示/違反報告)
夜空ゆーたお(プロフ) - 続き楽しみです! (8月5日 1時) (レス) @page20 id: 9a1d60d013 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿 | 作成日時:2023年7月16日 19時