その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ12)

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其ノ拾ページ12

あの後家に帰ると使用人がお父様からの伝言を預かっていた。

「Aお嬢様。旦那様が明日の午後は人が来るから家にいて欲しいと仰っていました。」

じゃあ明日は子供たちのところに行けないのね。

魔物に襲われないか心配だし、明日の朝はしっかり魔物を倒しておかないと。

「分かったわ。明日の午後ね。誰がいらっしゃるのかしら？」

「それが私も聞いたのですが教えて下さらなくて…」

人が来るとは言うのに誰かは言わないなんてなんで勿体ぶるのかしら……。

「そう。まあ明日になれば分かるものね」

「そうですね。では私はこれで失礼致します」

そして翌日の午後。

お父様は応接間に私を呼んだ。

「Aです」

襖の前で名乗る。

「来たか。入れ」

お父様から返事が返ってきて襖を開けると露が既に居て、奥に目を向けると、

神里様がいた。

「…あ」

なんで神里様がいるの

今まで私が志倉家の人間だと隠していたことがバレてしまった…

神里様が驚いたような表情でこちらを見ているのが気まずくて思わず目をそらす。

お父様はそんな私には目もくれず話始めた。

「今日は神里家と志倉家の婚約話を進める為に神里様に来ていただいた」

婚約話。

それは今までお父様からずっと聞きたかった言葉でずっと聞けなかった言葉だ。

ついに、来たのかもしれない。

お父様は私のことを野蛮な娘で志倉家の人間として相応しくないと言っていたけれど、婚約話を持ってきてくれたのかもしれない。

期待してはいけないと分かっているのに心が浮き立ってしまう。

「志倉様。婚約話を進めるとはまだ言っていませんよ。今日は娘さんに会うだけでもして欲しいと言われたから来ただけです」

神里様が少し困った顔で否定する。

「コホン。そうだったな。娘たちにはまだ伝えていなかったから今伝えるが、私は神里様と、露との婚約を進めたいと考えている」

…やっぱりか。

今までは露だってまだ婚約していないし私が先に結婚出来るんじゃないかとどこかで思っていた。

だけどそんなことはないんだ。

私は結婚の夢をみてはいけない。

お嫁に行けるのは露のようにお淑やかであったり趣味が女性らしくなければいけないんだ。

私は自分がどんな表情をしているのか分からなくてそっと下を向いた。