その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ11)

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其ノ玖ページ11

「な、名前で…ですか？」

「ええ。私たちはもう友人とでしょう？友人に社奉行様と呼ばれるなんて距離が遠いではありませんか」

社奉行様の言うことに納得が出来たので私は素直に従うことにした。

「分かりました。神里様」

友人と言って貰えたにしても相手は神里家当主。

下の名前で呼んだりさん付けで呼んだりするのは流石に出来ない。

でも神里様は気に食わなかったのか少し不満そうな表情をする。

「か、神里様はご自身の立場をお分かりですか…!?これ以外の呼び方なんて出来ません…！」

私があまりに必死な顔をしていたのか神里様は笑って言った。

「ふふふ、なら仕方ありませんね。いつか呼んでもらうことにしましょう」

「神里様が神里家当主である限り無理です…。私とは住む世界が違うのですよ」

「何故、そこまで自分を卑下するのですか？私も貴方も同じ人間ですよ」

…神里様は当主だからと威張ったりしない人なんだな。

当主の言うことは絶対、逆らってはいけない。

無礼なことをすればたとえ娘でもどうなるか分からない。

志倉家ではそう教育されてきて、常にお父様の顔色を伺って過ごしていた。

刀を持つことだけは辞めなかったけれど。

「そうですけど…。と、とにかく今は無理ですっ」

私はもうこの話は終わりですっと伝えるようにぷいと横を向いた。