the little princess of Reinherz ページ2
耳の奥がキーンとする感覚に目が覚めた。
すっかり冷えたコーヒーを口に含んでため息をついく。この気圧の変化で起こる飛行機独特の感覚はいつまで経っても慣れない。
｢Aお嬢様、新しいコーヒーを貰いましょうか？｣
｢ううん、大丈夫。…緊張してる？｣
フィリップは少し困ったように笑って顔の右半分に触った。そこに前のような柔らかな皮膚は無い。
無機質な仮面のようなものがそこを覆っている。
前回HLに渡った彼はなんやかんやに巻き込まれてHLらしくなった代わりに沢山学んだらしく、憑き物が落ちたようになって帰ってきた。
その時はひどく肝を冷やしたが。まぁ、そんなこと、彼は知る由もない。
ただ彼が知るのはフィリップがドイツの本家に帰ってきたときに玄関前で｢…クラウスお兄様のところで随分男前になったみたいね…まぁ、なに。おかえりなさい｣と言い放ったAと｢Aお嬢様…。はい、ただ今戻りました｣と答えた自分だけだ。
｢緊張というより、戸惑っている、のかも知れません。またここに来ることになるとは思いませんでしたから｣
｢ドイツに帰りたいなら帰っていいのよ｣
｢まさか！私はAお嬢様の
真面目に返されて少し恥しいようなくすぐったいような気持ちになる。
フィリップからの強い忠誠心と年下で小さな主に対しての暖かな心からの愛情はいつもひしひしと感じているが、こう真っ直ぐ言葉にされると些か居心地が悪い。
嫌ではなく、むしろ嬉しいとも思うのだが。
｢あとどのくらい？｣
｢30分程で到着する予定です｣
｢楽しみね。クラウスお兄様にお会いするの何年ぶりかしら。いつもお忙しい方だから｣
コーヒーのカップを持ってそれがとっくに冷めていることを思い出した。
｢フィリップ、ココアが飲みたい｣
なんとなく、とびきり甘いものが飲みたい気分なの。
ライブラの事務所から車で出ようとしているクラウスにスティーブンが声をかけた。クラウスを目に見えて楽しげにしている原因に簡単に察しがついた。
｢お嬢のお迎えか、大きくなってるんだろうな｣
｢あぁ、四、五年ぶりだ｣
｢君随分あの娘のこと可愛がっているみたいだな…やっぱり母親が違っても末の妹ってのはとびきり可愛いんだろ？｣
｢もちろんだとも。例え母が違えど愛すべき家族だ｣
｢the princess of Reinherz かその通りかもな｣
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作者名：チューバとシーラカンス | 作成日時：2017年12月11日 1時
