snow pink

１０黄 ページ10

黄



『お邪魔しまーす』



勝手知ったるなんとやらで、まず佐久間を洗面所に運んだ。

一緒に手洗いなどを済ませて、嫌がる佐久間を今度は姫抱きして寝室へ。

「勘弁してよぉ」と情けない声が聞こえるけど当然無視した。

ベッドに腰かけさせて座ってろと釘を刺しお世話開始。



『手伝う？』

『…自分でできる…』



風呂は無理だから着替えだけしたほうがいいだろうとクローゼットからスウェットを出して手渡した。

佐久間が着替えてる間に、もう一度熱を測るためリビングの引き出しから体温計を取り出す。

もはや何がどこにあるかだいたい把握していて他人の家って気がしない。



『はい』

『…ありがと…』



佐久間は少し唇を尖らせて渋々って感じだけど、ちゃんとお礼付きで体温計を受け取り脇に挟む。

ずいぶん素直になったこと。

佐久間の異変に気が付いてこうして看病に来始めたころ、こいつはこんなに大人しくなかった。

暴れたり怒鳴ったりウソ泣きしてみたり大変で。

主にふっかと阿部と俺で抵抗をねじ伏せて今に至る。

病人に看病を断る権利は与えない、それが俺ら３人の共通認識だ。

ゆり組は最終的に佐久間を甘やかし気味だから、来るときはこの３人の誰かと一緒でってことにしてる。

意外にもあの“バカ、バカ”言ってた翔太が一番佐久間を甘やかすから厄介だ。



『佐久間、レトルトだけどおかゆあっためたから食べれるだけ食べて』



阿部が小さな器とスプーンを持って現れた。

それを見た佐久間が何か言いかけたところでピピッと音が響く。

佐久間が服の下から体温計を取り出し、表示を見てフリーズした。

すかさずそれを取り上げる。



『ぁッ…』

『照、何度？』

『３８．９』

『うそ、そんなあんの？佐久間いま寒い？熱い？』

『ぅえっ？……えっと…？？』



またすぐに答えられない佐久間に、阿部の目がどんどん据わっていく。

うわぁなにその顔…俺ですらちょっと怖いんですけど。



『…寒い、かな？…たぶん…？』



歯切れの悪い答え。

佐久間に悪気はないのはわかっている。

けど、そこまで考えなきゃわかんないってこと自体にやっぱり俺も心配が募る。

特に心配性の阿部にはその心配が過ぎる瞬間というのがあって…。



『…もういい』



あ、うん、いまがそう。

阿部の中で対佐久間用心配メーターカンストしました。



とりあえず、俺しーらない。



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