とてもじゃないけど、 (ページ9)

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ep.8 ページ9

(泰志)

「終わったか？」

「わかんねえ…あちこちから溢れ出てくるわ」

殴っても殴ってもひと、ひと、ひと、ひと。全然減らねえどころか増えてやがる。ジャム男から聞いた話では、瀬ノ門の頭である天下井って野郎が金で数を買ってるらしい。今ここにいるのは、あいつで言う駒共な訳で。

「チッ、鳳仙の奴らも人数に手こずってやがんな。こっちだ！」

狭い校内の、ある教室の一つ。カーテンが揺れてガラスが飛び散ったその中に、奴は立っていた。

「A…？お前、なんでここに！」

『やっほー。遊びに来ちゃった』

「遊びに来るような場所じゃねえだろ…。怪我は」

『開いちゃったかも！こいつなかなか強かったし。俺も流石にスタミナ切れちゃうよ〜』

ぴくりとも動かないカーキ色の学ランを着たこいつは、カマ高の氷室零二だ。確か楓士雄とやりやって負けた…はずなんだが、まだ元気だったらしい。まあ今は見ての通りだけど。

『ねえ氷室くん。聞こえてないだろうけど訂正しとくね。鳳仙は強い。そりゃあムラはあるけどさぁ。君たちよりも遥かに強い、それが答えだよ。次そんなこと言ったら……本当にら殺すからな』

「…おお、こえー」

『まあ俺たちの呼び名は殺し屋からね〜』

お互いに傷だらけ血まみれの状態なはずなのに、Aは何故か爽やかに見える。俺との差はなんだ。顔か？いや雰囲気か。…やめよ、虚しくなるわ。

「お前、まだ体大丈夫か」

『もう一回氷室が来なければ大丈夫』

「この先、まだ全然人数が削れてねぇ。来れるなら来い」

『来い？…来てくださいの間違いだ、ろ！』

「っは、そんだけ喋れるなら余裕だな！」

はっきり言って、病み上がりの傷だらけとは思えねぇくらいのポテンシャルだった。よく言えば的確、悪く言えば機械的。そんな言葉が合うようなAの動き方は、1発1発が弱点を突いてて無駄がない。さすが鳳仙で髪生やせてるだけあるわ。

「お、あれ轟たちか？」

『とどろき？待って、まさか……！！』

「あんれ。とどろきしゃ〜ん。俺、ついに幻覚が見えるかも」

「幻覚じゃねえぞ。しっかりしろ。目の前にいるだろ」

「………幻覚じゃないんだったら、大問題なんだけど？」

やっと轟と小田島の部隊に追いついたか。にしても、ここも雑魚の量がやべえな。全然減らねえ。どっから湧いて出るんだよ。あーあ。さっきまで清史の分まで俺がやってやるとか思ってたけど、やっぱお前がいねえとつまんねーわ。早く傷治せよ、清史。