IF/ ep.10.5(小田島△高城) ページ24
(高城)
"んな顔しなくても、俺は盗らねぇって"
本人を目の前にすると、そう言うしかなかった。それに対して小田島は"わかってる"と発した。俺の全てを知ってるかのように。
「小田島」
「なに。どーしたの」
「さっきのことなんだけど」
「…はぁ」
サングラスを外した小田島が見る先は、鬼邪高の奴らに支えられて笑うAだ。俺が言えたことじゃないけど、フラフラで立つことすら危うい状態。あいつがあんな大怪我負ってるなんて知らなかったし不謹慎かもしれないけど、あんな怪我の中俺のことを思って動いてくれたのが凄く嬉しかった。Aに愛されてるんだなって。
「あいつさぁ、なんであんなに人に愛されるんだろーね」
「うちの楓士雄もだけど、俺らには分かんねぇ何かがあるんだろ」
「見つけたのも捕まえたのも俺なのにー」
河川敷でAと拳を交わしたあの日、確かに俺は何かに落ちた音がした。入ってしまえば抜けられないような、沼に足を取られる感覚だった。足がふらついたAを支えたのは偶然だったけど、多分、ここで倒れられるのは困ると思ったから体が動いたんだろうと思う。……欲を言えば、あれで俺のことを覚えてもらあればいいな〜なんて。
「なあ。やっぱ訂正しとく。俺、小田島からAを盗らない保証なんてねぇわ」
「わかってる。Aがいたから嘘ついたのも知ってる。あーあ。お前みたいないい男、別にあいつじゃなくてもいんでねーの」
「周りからどう見られてるかは知らねえけど、俺もあの時Aを見つけた。それだけ」
そう、それだけ。同じ学校で同じ幹部。先に見つけたのは小田島かもしれない。今、手を掴んでいるのも小田島かもしれない。でも鬼邪高と鳳仙がぶつかったあの日、俺も矢田Aという人物を見つけ、惹かれたんだ。
「んな真っ直ぐな目で見んなよ。俺も別に邪魔したりしねーから」
「自分の元に戻ってくる、って自信があるから余裕だな」
「およよ、バレちゃった?そう。信頼と実績があるからねぇ。Aは俺のとこに真っ先に来てくれんの」
「でももし、俺の手を取ったら?お前はどうするんだよ」
「その時は俺の負け。…なーんちゃって?」
ムカつくほど余裕な小田島だけど、現状俺に旗が上がる確率はかなり低い。こいつの言ってる通り、結局Aは小田島の元へ戻るはずだ。
『司、お大事にね』
「ああ」
本当は行かせたくない。俺も…。そう思って伸ばした手は、無惨にも届くことはなかった。
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作者名:飽き性 | 作成日時:2022年9月30日 1時