とてもじゃないけど、 (ページ15)

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ep.12 ページ15

『ゆうけーん。どこいくのー』

スマホを触りながら歩く有剣の後ろをついていくだけの時間を過ごしてから、多分10分くらい経った。病院が少し遠かったのもあるけど、こっちは学校方面でも家方面でもない。

『有剣？』

「なーに？」

『目的地は？』

「ここ。とうちゃーく」

『ここって…』

「Aへのごほーび」

シンプルな筆記体で書かれた英語の看板が掲げられたその店は、どうやらクレープ屋さんのようだった。店内は落ちたモノトーンカラーで統一されていて、とてもじゃないけどここらにある店だとは思えない内装だ。店内には何組かお客さんはいるものの、みんな周りを気にすることなく好き勝手に過ごしている。

「マップ開いてたのに、迷子で遠回りしちゃったて時間かかったわ」

『だからたまに変な顔してたんだ』

「まじ〜？俺変な顔してた？」

『してたよ。えー、みたいな』

何回かしてたもんね。俺ちゃんと見てたよ。あまりにも必死にスマホ見てるもんだからさ、ちょっと心配なったっていうか。あはは。まあ…そういうこと。でもまさかお店に連れてってくれてたなんて思わなかった。喧嘩の後ってすごいお腹空くし糖分を欲してるから、嬉しい。

「あ、うれし〜って顔してる〜」

『だって嬉しいし…』

「そう。Aのその顔が見たかった。あー、可愛いねぇ。JKにも負けてないんでねーの？」

『は？いや、女子高生には負けるから。舐めてんだろ女子高生』

「俺にはAが1番可愛く見えるけど」

『まっじでお前さあ…』

「およよ？照れたぁ？A照れてる？」

『うるさい』

「ねえ、クリーム口につけてこっち向いてよ。俺あれやりーい。ついてるよーってやつ」

『あれ？俺へのご褒美じゃなかったっけ？』

「クレープはAへのごほうびで、俺へのごほうびはクリーム」

『相変わらずめちゃくちゃだな…』

「俺も頑張ったからさぁ？ね、いいじゃん」

ミルクティーを飲む有剣を見て、この見た目に惹かれた人はきっと中身に苦労するだろうなと思った。なんか想像と違うって言われそうだもんな。この人、ちょっと変わってるもんね。いや鳳仙に変わってない人なんていないんだけどさ。

「てか、丸ごとでもいいけど」

『ん？なにが？』

「俺へのごほうび？」

『いや、まっ、』

「きゃ〜奪っちゃった〜！」

『……』

びっくりした。一瞬、俺の目の前には狼がいた。口元についてるクリーム…なんて可愛いもんじゃない。本当に食われるかと思った。