”愛して欲しい”は嘘じゃない。 (ページ23)

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心臓がどくどくと鳴り止まないままの手でなんとかトップスのボタンをかけて部屋から出る。

「あのえっと・・おまたせしました」

ぽかぽかと背中をトガさんに叩かれながら複雑そうな顔をする荼毘さんに申し訳無い気持ちが湧いてくる。

そんな私を気にもとめず死柄木さんは歩き出した。

「いくぞ」

「はい」

自由気ままに歩くにぎやかな荼毘さんたちは気づけば別の道に荼毘さんは歩いていったようで、人気のない道は静かになった。

「あの」

「あ”？」

飲み込んでしまいそうな言葉を必死で吐き出す。

「今日、泊まらせてくれませんか」

「は？」

どう見たって引いている＿＿というか困惑しているのがよく分かる。

でも今日は、今日だけは

帰る気になれなかった。

「今日だけ、泊まらせてください」

死柄木さんは一つため息をつくと短く答えた。

「・・いいけど」

それだけ告げてすたすたと路地裏を進んでいく。

「聞かないんですか」

気がつけばそんな事を言っていた。

聞いてほしくない、聞かないでいてくれてる、それなのに、それに疑いを持ってしまう。

この人は私のことなんて、きっとどうでもいいんじゃないかって。

いつもそう。

母親にとっても父親にとっても友達だった子たちにとっても誰にとっても

私はきっと、どうでもいい。否、いなくていい。

「なんでか、聞かないんですか」

「何、聞いてほしいわけ？」

前を向いたまま淡々と返答が返ってくる。

そうじゃない。

そういうことじゃない。

聞いてほしいわけじゃなくて、だから

「気にならないんですか。突然泊めてなんて」

「ある。けど人間聞かれたくないことのひとつやふたつはあるだろ」

「っ」

「話したいならお前が話したいときに話せばいいだろ。そうじゃないことは変に探ったりしない」

こぼれてきそうな涙を必死でこらえる。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿お父さん、亡くなったそうよ

＿＿＿＿＿あの子の個性、父親体って

＿＿＿＿＿＿＿＿＿もう関わっちゃダメよ

探るような視線。嫌悪する視線。

その視線から、私から逃れるために、現実から逃げた母。

その元凶の私。

全部全部何もかも嫌い。大嫌い。

「ここ(ヴィラン連合)はそういうところだ」

淡々とした答えは今まで向けられたことのないほど暖かくて優しい言葉だった。

「ありがとうっ・・・ございます・・・」

消えてしまいそうな声を絞り出せば、泣き止むまで死柄木さんは待っていてくれた。

この沈黙は、どんな慰めの言葉よりも優しかった。