Flowerwall (ページ26)

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「あの時はそう言ったけど...マサさんに石川くんの出発日聞いて、まさかかぶるとは思わなかった」

石「何で言わないの？ずっと連絡も無視するし」

「だって返したら君の連絡ずっと来るし、下手すりゃ長電話だし、だったらその時間をバレーや休養に使ってほしいの」

俺の背中を叩き、体を少し離した彼女は頬をつねってきた。

石「いっ！」

「私のこと気にするのは程々にして、もっと広い世界を見てよ」

打って変わって真剣そのものの瞳に俺が映る。

「逸材くん、しゃんとして」

石「Aさんまでそれ言わなくていいよ」

「光栄なことだよ」

彼女だって逸材と呼ばれるに値するのに。
日本は、世界はまだAさんのことを知らない。

それを今から証明しに行く。

石「怖いとか、思ってる？」

「怖くないと言ったら、嘘になるかな」

意外にも即答した。
でも、と続ける。

「もう、止まれないかな」

そう笑う彼女につられて笑う。

石「そうだ、もう止まらない」

「うん、止まっちゃだめだよ」

時計を確認した彼女が、時間だと言う。
名残惜しいけど、ここまでだ。

「大丈夫だね。石川くんも、私も」

石「うん」

「じゃあ、体に気をつけて。しっかり何でも食べて、夜更かしもしないように」

石「母親かよ。Aさんも、怪我とかしたら許さないから」

「言うね。わかったよ」

じゃあと彼女が言って、じゃあと俺が言う。
搭乗口はお互い反対方向だ。

「またね、祐希！」

石「え」

ずるいと思った。
いたずらが成功した子供のような笑顔で、彼女は手を振りながら旅立った。

「石川くんは花井さんと仲良かったんだね」

搭乗開始までもう少し、そんな時にスタッフさんが言った。

石「仲は、良い方だと思います...あの人のこと知ってるんですね」

「花井さんは実際あまり表立った話題はないけど、彼女は才能も身体能力も群を抜いてるからね」

石「プレーもですけど、洞察力とかも凄くて自分もすごく勉強させてもらってます」

「彼女、なんて呼ばれてるか知ってる？」

石「いえ...」

スタッフさんは、喜ばないだろうな、と続ける。

「"無冠の花"だって」

それを聞いて少し想像する。
無冠だって、ダサいよねと笑う彼女の姿を。

そんな呼び名、相応しくない。

石「あの人はそんなもんじゃないです、絶対に」

共に世界一になる姿を思い描いた。

金色に輝くメダルを手に取ったら、どんな風に笑うんだろう。その瞬間に、そばにいれたらと思う自分がいた。

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