Flowerwall (ページ25)

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Side Yuki.

12月。今日日本を発つ。
密着取材を受けながらの数日間、気がかりなのはAさんと連絡が取れないこと。

マサさんは頻繁に連絡くれるし、関田さんや中央大のメンバーも俺が心置きなくイタリアに行けるようにサポートしてくれ見送ってくれた。

Aさんが返信にまめじゃないことは分かってる。でも。

彼女からの言葉が欲しい。
どうせ、俺のことなんて心配してないとか言うんだろうけど。

空港の国際線ターミナルに着き、再びメディアの取材を受ける。
末期かもしれないけど、背の高い女性を見かけると少し目で追ってしまう。質問を受け、そちらを向いていると次には見失ってしまった。
取材と挨拶を済ませ、保安検査場へ。
ここを通れば後戻りはできない。

大丈夫、しない。

窓の外からは今から旅立つ航空機のライトがチカチカと反射している。
自分の中に込み上げてくる何かを、深呼吸で抑えつけた。

もう一回だけ、電話しよう。
それでダメでも、俺なら大丈夫だって事だと思おう。
スマホで彼女を探し、その番号を押してコールが続く。

プッとコールが途切れた。息を飲んだ。

"もしもし...？"

電話の向こうの彼女は少し笑っているようにも聞こえた。

石「Aさんさ、頼むから返信してよ」

"ごめんごめん"

やっぱり笑ってる。
少し見透かされてるようで、からかわれているようで。

石「俺、今日行くんだよ」

"知ってるよ、マサさんに聞いた"

石「......なんでマサさんに聞いといて、俺には何も言ってこないの」

声が情けなくなってる。

今は、少しだけ許してほしい気持ちだった。

石「Aさんにとって、俺はもう少し特別かと思ってた」

"......特別か"

そう呟いて黙り込む彼女。
鼻がツンとしてきて、一度深呼吸する。

石「......ごめん、困らせること言っ」
「特別、かな」

彼女の声が聞こえた。

電話の向こうじゃない、まるで隣にいるみたいな...

息が止まるような思いで、そちらを向いた。

石「...... Aさん？」

俺の隣に立つ、彼女はスマホを耳にあてたまま笑っていた。

「驚いたでしょ？」

石「え......もう、よく分かんない」

こみ上げた感情のまま、多分乱暴に、Aさんを抱きしめる。彼女は苦しそうだったけど、緩めるほど余裕はなかった。

石「なんで？なんでいるの？」

「私も行くんだよ。イタリアじゃなくて、オランダだけど」

石「オランダ？だって、日本って」

言ったね、と彼女は笑った。

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