26. ページ26
・
めめが捕まえたらしいタクシーのドアが
俺たちの姿を見つけると静かに開く。
「ごめんなさい、濡れちゃうんですけど」
と丁寧に運転手に声をかけてから、
俺をその中に押し込んだ。
優しそうな運転手さんは、「気にしなくてください」と穏やかな口調で言って行き先を尋ねる。
彼は一瞬俺の方をちらりと見てから、
自分の家の住所を告げたらしかった。
血を吸った後、彼が俺を放っておいたことは一度もない。
「…あぁ、なんかお兄さんたちのことを知っているような気がしたんだけど、」
穏やかな口調の運転手は、
バックミラー越しに俺たちを見ながら言った。
「アイドルでしょう？
Snow Man。
娘がとても好きでね」
人混みの中をあんなに歩いても気づかれなかったのに、
今日初めて、自分たちのことを認識する人間に出会った気がする。
ありがたい気持ちと、現実に引き戻されるような気持ちがごっちゃになって、
それでも、自分たちを認識してくれる人の前では完璧なアイドルでありたくて、
俺は背もたれにだらしなくもたれかかりそうになっていた、気だるい身体を起こして背筋を伸ばした。
「ありがとうございます」
笑顔で微笑んで見せると、
運転手さんは「律儀なんだねぇ」と感心したように言った。
めめはとなりで俯いていた。
もっと愛想よくしないと、
と肩を突いたけれど、彼は顔をあげない。
運転手さんはめめの家の前にたどりつくまで、
娘さんがどれだけSnow Manが好きで、
普段どんな会話をしていて、
自分も俺たちの曲をすっかり覚えてしまったことを楽しそうに話した。
得意げにメンバーの名前を呼んで、
「君たちは阿部くんと目黒くんだろう」と嬉しそうに笑う。
「着いたよ」
決して安くはないタクシーの料金を、めめは黙ってスマホで支払った。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。
最近渋谷はかなり物騒みたいだから気をつけてね」
その言葉に他意はない。
それでも、今の俺たちには刺々しく聞こえた。
「…はい、気をつけます」
タクシーを見送ってから、
めめは黙ったまま俺の手を引く。
吸血の度に何度か彼がうちに来ることはあっても、
俺がめめの家を訪れようとするのは初めてだった。
雨ですっかり身体は冷え、
無意識に身体がぶるっと震えた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 805人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
haryu(プロフ) - パスワードにつきましては、調べればすぐに出てくる簡単なものになりますのであえて明言はしないつもりです…どうしてもの場合は、この界隈で気を付けていることをメッセージ等で教えていただけましたらお伝えするかもですが、とっても簡単なので調べてみてくださいね (2021年7月27日 21時) (
レス) id: 4773123c33 (このIDを非表示/違反報告)
maeson(プロフ) - いつも楽しく拝見させていただいております☆PWの件でメッセージを送りましたので、確認していた抱けると嬉しいです。よろしくお願いします。 (2021年7月16日 0時) (レス) id: fb509ff87f (このIDを非表示/違反報告)
るあ - すみません（汗）1つ聞きたいのですが、haryu様がパスワードを掛けている作品のパスワードが分からないので答えてもしくはヒントを頂きたいです (2021年7月13日 21時) (レス) id: 6c3c1d460c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：haryu
| 作成日時：2021年1月2日 22時
