2話 ページ3
仕事帰りのサラリーマンで賑わう立ち食いステーキ店。
その前で立ち尽くすA。
手元のケータイマップからは、目的地です、と無機質な声が聞こえた。
こういった店は馴染みがないのか、緊張した趣で入口を見つめるAの後ろを、通行人は少し不思議な顔で通りすぎていく。
無理もない。
進学校として有名な私立高校の制服を着ているだけでも目立つのに、絹のように美しい白髪に、大きな青い瞳は見る人を惹きつける。
見兼ねた店員がAに声をかけた。
「あのー、入ります？ 1名様ですか？」
『あ、はい、えっと。待ち合わせ、してて……｡』
「待ち合わせ？ あ、五条さんですね。中でお連れ様がお待ちですよ。」
どうぞ、と店員が店の中へ招き入れてくれる。
恐る恐る中へ入ると、ステーキの香ばしい香りが鼻をくすぐった。
お腹が空いたな、などと思いながら少し店内を見渡すと、奥の方に見覚えのある白髪と黒髪を見つけた。
Aは先程までの難しい顔とは打って変わって、少し嬉しそうな顔で彼らに近づいた。
立ち食いスタイルのおかげで見つけやすくて助かった。
「伏黒、お前芋くさいって言われてるぞ。」
「お前だろ。」
「お前だよ。」
『あ、美味しそ。1口ちょうだい？』
Aの声に、大きく肩がはねたピンク色の髪の少年と、茶髪の少女。
東京都立呪術高等専門学校1年
「び、っくりした……！」
「誰……｡」
驚く2人の横で、Aは伏黒にステーキを1口ねだっていた。
「思ったより早かったな。」
『本当はもうちょっと早く着いてたんだけどね、お店入るの躊躇っちゃって。……あ、美味しい。これ何ソース？』
「甘口ソース。」
『へえ、正直舐めてたけど、美味しいね。……どうしたの、悟くん。』
「……なんでいるの、A。」
虎杖と釘崎の他に、わかりやすく狼狽える大人が1人。
それもそのはず。
彼は今日、任務が六本木であることも、もちろんその後立ち食いステーキを食べに行くことも伝えてないのだから。
『恵くんに教えてもらった。』
Aは五条の方は見向きもせず、それどころか、伏黒からライスとスープも1口ずつもらう。
情報を流した伏黒も気にすることなくステーキを食べ進めていた。
Aも来るなら、もっといい店に行くんだった、と五条は肩を竦めた。
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作者名：こおりざとう | 作成日時：2022年1月24日 4時
