盗み聞き ページ12
尋ねる私に、室生さんは「拒否権無いよね」と力なく笑った。
その瞳は何となくだけど、先刻より明るい気がした。まるで肩の荷が降りた、とでも云う様に。
『彼処に……校門の所、見えるかな?』
「うん、見えるよ。」
『車を待たせてるの。金髪眼鏡の真面目そうな人が乗ってるから、一緒に特務科まで行って。話は通してるから。』
室生さんは私の言葉に素直に応じ、少し寂しそうな顔をしてから私に背を向けた。
『……犀星ちゃん。』
「……えっ。」
『今度は、ちゃんと友達に成れると善いね。』
「ありが、とう……っ。」
室生さんは泣いていた。泣き乍ら笑っていた。
多分、今度は良い関係を築けると思う。仕事柄、何時かは会う機会が有ると思う。
満足そうな顔で屋上から出て行く室生さんを見送った後、私は扉に背を向け1つ溜め息を吐いた。
そして、扉の向こうから室生さんの足音が聞こえなくなるのを待った。
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.
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『盗み聞きなんて趣味悪いよ、緋莉ちゃん。
嗚呼、ごめん。違ったね。』
永井荷風さん
扉がゆっくりと開く。
そこから現れたのは、肩までの艶やかな黒髪を風になびかせた、緋莉ちゃん。
本名──
私の勝負は此処から始まる。
「あははっ、Aちゃんじゃん! 私の名前は緋莉だよ? 昨日、一緒にお話したでしょ?」
ケラケラと笑う永井さん。
室生さんとは違い、一時も気を抜けない。
『緋莉は偽名。本当は永井組のお嬢さんでしょ。
ねぇ永井さん。答え合わせしよっか。この事件の謎を一緒に解こう。』
「あー、盗み聞きしたの怒ってる? ごめんね? 謝るから、もっと温和に行こうよ!」
明るい声に反し、目はギラリと私を捉えて離さない。
微量の殺気が屋上を渦巻く。
『愉しかった?』
「ん? 何が?」
『自分の仕立てた偽りの犯人が、私に問い詰められて苦しむ様を見るのは。』
「あー、何だ……その事……。」
まるで初めて知ったとでも云うような口ぶり。にも関わらず、目と口は三日月型に歪められ、
既に判っていた筈なのに。
「あはっ、あはははっ! うん、愉しかった! 愉しかったよォ!!」
お前が気付かなきゃ、もっと愉しかっただろうねェ
目の前の彼女は、人殺しの目、そのものだった。
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こおりざとう(プロフ) - れたすさん» コメントありがとうございます! ここから少しずつ、事件と篠原ちゃんの過去が明らかになっていきます。お楽しみに! (2017年4月11日 17時) (レス) id: fb35e39608 (このIDを非表示/違反報告)
れたす(プロフ) - 最後のせりふっ!続きが気になる途切れ方……更新まってます! (2017年3月26日 22時) (レス) id: c8875f112f (このIDを非表示/違反報告)
こおりざとう(プロフ) - 狂夜月さん» コメントありがとうございます! もう少し更新ペースを上げられるよう頑張りますね! (2017年2月26日 23時) (レス) id: fb35e39608 (このIDを非表示/違反報告)
狂夜月(プロフ) - 面白いです!がんばってきださい! (2017年2月24日 21時) (レス) id: 0f9e6c0dce (このIDを非表示/違反報告)
こおりざとう(プロフ) - みるふぃーゆ@怠惰Girl&Boyさん» コメントありがとうございます! 色々と想像しながら読んでみてください(笑) 更新頑張ります (2017年1月31日 19時) (レス) id: fb35e39608 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こおりざとう | 作成日時:2017年1月20日 23時