月華

#17 ページ17

#17




side_Hokuto




「え？！北斗、海知らないの？！」


「…知らない。なにそれ」


「海はね、すっごく大きい…そうだな、

水たまり…？みたいなやつ」


「へぇー、見てみたいな…」


「綺麗なんだ、今度連れて行ってあげる」


「…うん」


慎太郎は俺が知らない世界を教えてくれる。


氷の大地、砂の雪原、"海"という大きな水たまり…

どれも、屋敷にある本にも載っていなかった。


俺はなんでも知っていると思っていたけれど、

実はとんでもなく無知だったのだと慎太郎に

気づかされた。


そして、俺はいつか慎太郎が教えてくれた世界を

慎太郎と見てみたい。


きっと、すごく綺麗なんだろうな…


俺は咄嗟に屋敷から持ってきていたパレットと

スケッチブックを手にして俺の思い浮かべた"海"を

描いてみた。


「…どう？」


「上手…でも、海はもっと青いんだよ」


「…濁ってないの？」


大きな水たまり…なんて言うから、

泥が混ざってて、青と茶色を足した感じだと

思ったんだけど…


慎太郎の顔を見ると、

俺の絵は"海"とは多少違うらしい。


俺は少し悔しくて、

口を尖らせて描いた絵をまじまじと見つめる。


「北斗、本当に絵が上手いよね」


「…小さい頃から本を読むか、

絵を描くかしかしてこなかったから」


「…見せてよ」


スケッチブックを渡すと、

慎太郎は1ページずつ丁寧にめくり、

ゆっくりと俺の描いた絵を鑑賞しだした。


「…これ誰？」


俺のスケッチブックには動物か、

森の風景くらいしかないけど、

ごく稀に大我が描かれている。


大我は長時間じっとしておくことが苦手だから

なかなか描かせてくれないんだけど、

俺は大我を描くことが一番好きだった。


大我は、あまりにも綺麗だから。


「…大我。前に言った…俺の大切な人」


「この人が…本当に綺麗な人だね」


「うん」


「ねぇ今度さ、俺も描いてよ」


「えー、慎太郎じっとしてられる？」


「する！頑張るから！」


「ふふ、ならいいよ」


「やった！約束ね」


慎太郎が俺に小指を突き出してきたから、

俺も真似して小指を立てて見せると、

慎太郎はその指を絡ませてきた。


慎太郎曰く、これは約束の証らしい。


よくわからなかったけど、

慎太郎が笑ったから、俺も自然と笑った。




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