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ここ、北の国は人が生きていく上では、いや、魔法使いでさえも生きていくには、随分と厳しい環境をしている。
空は澱んだ灰色に覆われ、容赦なく氷の礫が降り落ちてくる。
視界は真っ白。
白も濃ければ、濁った色になるのだと初めて知った。
Aは自分のちっこい手を見つめる。
布で出来たそれは、凍って固まっていた。
後で溶かして貰わねばならない。
こういう時こそ、ぬいぐるみで良かったと安堵する。
人の身であれば、身も凍るほどの寒さだ。
ここが生の息吹を感じさせない極寒の地なのだと実感させられる。
｢ねぇねぇミスラ！空見て、空！｣
｢……空？何かありますか？｣
Aは興奮したように、自身を乗せた肩の持ち主である彼に声をかける。
彼、ミスラは気だるげに顔を上げて、不思議そうに首を傾げた。
彼は濡れたような色気を持ち、酷く顔立ちの整った美しい男であった。
燃えるような赤色の髪と、宝石を埋め込んだかのような綺麗なエメラルドグリーンの瞳、この地に降り落ちる雪のように白い肌。
見ているだけで、ソワソワと体が落ち着かなくなる。
そんな気分にさせる魅力があった。
｢月！おっきいねえ｣
｢＜大いなる厄災＞が襲来しているのだから、当たり前でしょう｣
いつもならば荒れ狂う吹雪によりうっすらとしか姿を見せない月が、今日この日だけは空にぽっかりとその姿を大きく浮かばせていた。
真っ白い世界の中、それだけは不気味な光を反射させて、そこに存在していた。
この世界を滅ぼす脅威であるはずなのに、何処か惹かれてしまうのは何故なのだろう。
神秘的で、怖くて、分からなくて、でも目が離せない。
その感情はどこか恋に似ている。
かの有名な哲学者が心を奪われたのも理解出来る気がした。
｢はあ、面倒です｣
｢ミスラ、気をつけてね｣
｢当然です。今回も、まあ、押し返せるでしょう｣
｢ミスラは強いからなあ！｣
この世界では、年に一度月が近づいてきて、ここにあるすべてを壊そうとしてくる。
これを人は＜大いなる厄災＞と呼んでいる。
その脅威からこの世界を守ってくれるのが、選ばれし魔法使いたちだ。
その魔法使いのひとりがミスラである。
彼は選ばれてから毎年ずっと＜大いなる厄災＞と戦っている。
その姿をAはずっと見てきた。
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あいねこ - 最高です。キャラクターとの関係性が素敵すぎます！素敵なお話をありがとうございます。更新楽しみにしております。 (2021年4月19日 2時) (
レス) id: 650a36dc0f (このIDを非表示/違反報告)
藤李 - ぬいぐるみが主人公とは珍しいですね！とっても面白かったです！続き待ってます！o(*ﾟ∀ﾟ*)o (2020年4月14日 19時) (レス) id: b71c5bc041 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星子 | 作成日時：2020年2月29日 2時
