落ちてしまった。 ページ31
───１ヵ月前───
「執務室のみんな！こいつが俺の高校の後輩、AAです！今日からよろしくお願いしますね！」
こうちゃんが元気よく女の子を連れて執務室に入ってきた。
あ、この人がこうちゃんの紹介で採用された人か。
「俺と福良さんはAさんとちゃんと面接してるから知ってるっつーの！」
「あれ、zoomで面接したんでしょ？知ってるに入らないからソレ！」
やいのやいの、とうるさいのぉ。
やかましい＋やかましいが合わさるから余計うるさい。
「ほら、A。こっちに居るのが河村さん」
「どうも、河村です」
「初めまして、AAです。これからよろしくお願いします」
「河村さんもAもらしくないぜ！いつも通りにしてよー！」
僕は初対面の人には簡単には心は開かないのだよ、こうちゃん。
この方には悪いけどそれなりに距離は取らせてもらうつもりだ。
初対面はこんな感じだった。
多分、Aだってそこまで僕に関心があったわけじゃないと思う。
僕がAを好きになったのはこの後の出来事だった。
僕は動画の企画が考えられずにムシャクシャしていた。
気分転換の為にベランダに出た。
「あ」
「あ」
先約が居たみたいだ。
邪魔になるかと思って室内に戻ろうとした。
「先輩、風に当りに来たんじゃないですか？一緒に外の空気、吸いましょうよ」
「君も当りに来たのか。仕事で悩んでる事とかあるのか？」
「……ちょっとした、ホームシックです。ずっと群馬に住んでいたから。東京に住むのは慣れないっていうか……あっちの方角が群馬ですよ、先輩」
「向こうが群馬ならあっちは栃木かな。僕の地元。東京に住んで随分経ってしまったけどね」
「地元は良いけど、東京も悪くないです。先輩みたいな頼りになりそうな人に出逢えたんですものね」
「頼りになりそうな、とは何だよ。頼りになるんだよ、僕は」
「はいっ、頼りにしてます先輩っ」
僕に向ける笑顔で落ちてしまった。
女の子の耐性なんか無い僕だから簡単に好きになってしまった。
それから僕は好きな子にはイジワルしたくなる、小学生みたいな奴になってしまったんだけどな。
Aにはこの事は秘密にしておきたい。
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作者名：*ゆ う* | 作者ホームページ：
作成日時：2021年3月22日 20時
