プロデューサーは走らない。 ページ40
二人並んで歩いている。
初めてだと思ったけど、もしかしたら昔にこうやって並んだこともあったかもしれない。
思い出せないくらい昔だと思うけど。
会話の内容はもう夫婦みたいで。
あっちのドラッグストアの方が拓実がいつも使っているオムツが安いとか、哺乳瓶の消毒液って減りが早いよねとか。
普通の恋人じゃない会話。
それでも俺はそこに幸せを感じてAさんと話をする。
恥ずかしいからって公共の場では手を繋ぐのは禁止にされて。
人とぶつかりそうになった時に手を引く。
「危なっかしいんだから、Aさんは」
「手、繋いじゃダメって言ったじゃないですか…」
「彼女なんだから繋いでも良いじゃん。拒否権なんてないよ?」
「……私負けましたわ」
回文を使って降参してくれるAさん。
結局手を繋いで買い物をする俺たち。
オムツにも色々種類があって迷ったけど、いつも使ってるやつにした。
お兄ちゃん、案外良いやつ使ってるんだな。
「次いでに拓実さんにおやつも買ってあげましょう」
「赤ちゃんってまだ食べちゃダメじゃないの?」
「7ヶ月くらいから食べられるおせんべいとかあるんですよ?白くて笏みたいなやつです」
「あー、あれか!」
「こうちゃんにも買って食べさせます?」
「牛丼じゃないから喜んで食べるよ、きっと」
オフィスに帰ってきてこうちゃんにおせんべいをあげると笑いながらも食べてくれた。
ちゃっかり山本も食べてたけど。
拓実を見てくれた(結局一人でお世話をしたらしい)河村には特別に幕の内弁当を買って渡した。
「おっ、さんきゅ」
「てか、拓実に何の本読ませてるんだよ」
「走れメロスだよ。名作中の名作だからね」
河村曰く自分はセリヌンティウスで福良はメロスなんだと。
俺は河村を人質として差し出したのかよ。
そんな河村も大事な親友の一人だけどな。
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作者名:*ゆ う* | 作者ホームページ:
作成日時:2021年2月1日 6時