【WT】不器用な青年とピアノを弾く青年の話【br】 (ページ23)

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12話ページ23

騒がしかった夏休みが明け、授業が始まった初日。まだ夏の暑さは残っており、涼しい場所を求めて彷徨う生徒達が校内には残っている

間違いなく俺もその1人で、足は自然と音楽室へ向かう

夏休みの思い出を名残惜しむような音色。それだけ、あいつにとっては最高の『夏』だったのだろう

『【In Summer Night】』

「あっ！Aだ〜」

いつも以上の笑顔で俺を迎えるbroooock。何か良いことでもあったのだろうか

『何か嬉しそうだな』

「聞きたい？」

『話したいなら聞く』

「聞きたくなくても話します〜」

『何だそれ』

相変わらずのマイペースさに苦笑しながらも適当に椅子を持ってきて座る。こんなやり取りも慣れたものだ

「Nakamuとシャークんからね、ゲーム実況を一緒にやらないかって言われたんだ」

『ゲーム実況…何だそれ？』

「みんなでゲームしながら喋ったりするのを録画して知らない人達に見てもらうんだって。僕も初めて知ったんだけど、面白いらしいよ」

ゲーム友達だからこそ出来る活動、それにbroooockももれなく誘われたということだろう。そして先程までの反応を見ているとそれを快諾したこともわかる

「きんときに先に声が掛かってて、僕とスマイルがOK出したとこ。きりやんはちょっと考えるって」

『そっか』

メンバーも頷ける6人だ。内容はわからないが、ゲームが好きでそれを楽しめる奴らならもってこいなんだろう

そして、この後broooockからどんな言葉が出るか。それを俺は何となく察していた

だからこそ、申し訳なさを感じながらも先に手を打たせてもらう

『良かったな、楽しくやってけるといいな』

「あ…うん」

少しだけ寂しそうに笑うbroooockに、心臓を針でちくりと刺されたような痛みが走る

でも、これでいいんだ

ゲームを好きな訳でもない、ただ仲が良いだけ。それだけの人間が、その輪の中に入ったところで何も生まれないのは目に見えている

きっとbroooockは善意で声を掛けてくれようとしたんだろう。だけどそれを受けることは俺には出来ない

生きる世界が違う

それを、痛い程実感したのだ

外からは、残暑を告げる蜩の鳴き声が微かに響いていた

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