【WT】不器用な青年とピアノを弾く青年の話【br】 (ページ11)

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6話ページ11

今日も今日とて俺の足は音楽室へ向かう。しかし、途中で違和感に気付く

『…休憩でもしてるのか』

ピアノの音色が一切聴こえないのだ。昨日までの3日間、確かに奏でられていたそれが、今日はない

『…いない』

扉を開ける。そこにbroooockの姿はなく、無人の音楽室には冷房の無機質な音だけが響いていた

毎日いると言ってた訳でもないし、気が向かなかったり別の用事で来ないことだってあるだろう。そうわかっているのに

どこか、寂しいと感じている自分がいた

いつもbroooockが弾いているピアノ。歩み寄って人差し指で鍵盤を叩く。ひとつ、音が鳴る

この音が連なって曲になっているのだと思うと、改めてピアノを弾ける人を尊敬する。俺にはこの大量の鍵盤がどんな音階を響かせるのか、想像することしか出来ない

「broooockなら今日はいないぞ」

扉の方から聞こえた声に驚いて咄嗟に振り向く

この暑い中きっちりと第1ボタンまでシャツのボタンを閉め、模範生のような見た目をした見覚えのあるそいつは、紫色の瞳でこちらを見つめていた

「…きんときの奴、意地が悪いな。何で俺に行かすんだと思ったら」

その名前で気付く。きっとこいつはbroooock達のゲーム友達なのだろう

『伝えに来てくれたのか』

「好きでやったんじゃない。きんときが『音楽室にbroooockを待っている友達がいるだろうから、今日は休みだと伝えてきてほしい』なんて言ってくるからだ」

『そうか、わざわざ悪いな』

スマイル。よく図書室で顔を合わせる同級生、名前と顔は知っている

特にこれといって話したことがある訳ではないが、その雰囲気から変わった奴であることは何となく知っていた

誰とも会話をすることもなく1人でただ黙々と本を読んでいる一匹狼のような存在なのだと思っていたが、まさかゲームが好きでbroooock達とつるんでいるとは思いもしなかった

「学年トップクラスの優等生が何してるのかと思ったら」

『随分嫌味な言い回しだな』

「あぁすまないな、悪い意味じゃない」