浴衣 ページ9
「う…」
司咲はスマホの画面に映るつばさを見つめた。目が合って、優しく微笑まれた。なんだか気恥ずかしくて俯いた。いつもはほとんど同棲しているようなものだから、電話越しにこうして話すのはなんだか新鮮だった。
「そういえば、お風呂あがりに奨悟さんにミルクティーもらった。間違えて買っちゃったから貰ってほしいって…」
『……へぇ。間違えて、ねぇ…』
スッと目が細くなった。眉間に皺が寄った。
「…あれ。もしかして、嫉妬した？」
『そりゃ、嫉妬するよ。ねぇ、奨悟にそんなかわいい格好見せてないよね？』
「かわいい格好、て？」
『その浴衣。襲ってくださいって宣伝して歩いているようなものだからね。そんなの、他の男…特に奨悟には見てほしくない』
「ごめんなさい。お風呂で浴衣に着替えたから…」
『…見たんだ。……へぇ』
「ごめんなさい」
『司咲。何もされてない？』
「うん、何もされてないよ」
柔らかく微笑むと、つられるようにつばさも微笑んだ。
「奨悟さん、ちゃんと諦めようとしてくれているよ。だから、大丈夫だよ」
『でも、まだ好きでしょ。そう簡単に好きになった人を諦められるわけないよ』
「未練はあるみたいだけど…。でも、大丈夫よ。つばさくんと約束した通り、できる限り奨悟さんとは2人きりにならないから。今日も先輩たちが一緒にいたし」
『……なら、良かった』
「そんなことよりつばさくん。すごく恥ずかしかったんだけど！」
司咲は襟を緩めると、大きくはだけさせた。
『ちょっ…！』
慌てるつばさに、司咲は鎖骨に目立つ跡を指差した。
「これ、先輩たちにバレたの。もう、本当に恥ずかしかったんだから！なんでつけたの！」
『……かわいかったから、つい』
プクッと膨れる司咲をつばさは優しく見つめた。
『恥ずかしがる司咲はかわいいね』
「つばさくんのバカ！」
襟を整えて帯を巻き直した司咲に、つばさは優しく声をかけた。
『元気そうで良かった。声を聞けて良かった』
「まだ1日も経ってないのに」
『寂しいんだよ。今頃何してるんだろうって、ずっと司咲のこと考えてた』
「私のこと好きすぎるでしょ」
『愛しているんだよ』
「も、もう寝る！」
バサッと司咲は布団に潜り込んだ。小さく笑うつばさは甘い声で『おやすみ』と言うと、通話を切った。恥ずかしくて、布団の中で頬を染めていた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年6月5日 21時
