横恋慕 ページ12
司咲の人生だ。奨悟がとやかく言う資格はない。だけど、どうしても他の誰かとの幸せなんて願えなかった。
「だめだよ。……やっぱり、他の誰かとの幸せなんて願えないよ」
「願わなくていいよ。私は勝手に幸せになるから」
「…結婚しないで」
「それは無理だよ。約束しちゃったし、私はつばさくんと一緒になりたい」
「なんで相手がつばささんなの」
「大っ嫌いだったはずなのに、なんでだろうね。今は大好きなの」
ため息を吐いた。彼女の心はもう、奨悟の方には絶対に向かない。
「……無理」
「…えっと」
奨悟の腕の中で戸惑う彼女を奨悟は離したくなくて、強く抱きしめた。
「諦められない」
「お願い、離して。つばさくんに言われてるの。できるだけ2人きりになるなって。2人きりではないけど、こんなのつばさくんに嫉妬させちゃう」
「うるさい。つばさくんつばさくんって、そればっかり。だったらなんで、僕に近付いたの!」
強い口調。だけど、言っている事は最もだった。
「だって、調子悪そうだったから。明日はゲネプロだから調子取り戻してほしかっただけよ。他意はない」
「……バカ。バカバカ!司咲ちゃんのバカ!…期待させないでよ!なんで、つばささんの方じゃなくてこっちに参加したの!……なんで、諦められないの…」
肩に奨悟が額を押し付けた。世の中、どうしようもないことはある。奨悟にとっては今がそうかもしれない。苦しくて仕方がない。
「……それが仕事だから」
また胸が痛くなった。少しでも、つばさより奨悟を選んでくれたと期待した自分を殴りたくなった。
「司咲ちゃんなんて嫌い。……でも、司咲ちゃんを諦められない自分のことが1番嫌い。ねえ、どうしたらいい?どうしたら諦められる?」
その問いに、司咲は答えることができなかった。泣きそうな背中を撫でることもできずに、ただ奨悟の胸を弱い力で押していた。
「…ごめんなさい」
「…分かってた。最初から叶わない恋だって。出会った時、ちゃんとアプローチできなかった僕が悪い。僕の横恋慕で振り回してごめんね」
奨悟は司咲をぎゅぅっと強く優しく、抱きしめた。
最後に髪を優しく撫でて彼女を解放した。いつの間にか、視界が滲んでいた。
「本当に大好きだった」
「うん。好きになってくれてありがとう」
お幸せに、なんて言葉はどうしても出てこなかった。
27人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年6月5日 21時