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ずきり ページ11

舞台の場当たりの休憩中、奨悟は隅に座って息を吐いた。今回の座長は奨悟で、先輩もいるけれどほとんどが後輩の俳優だった。今だけは、失恋で心を揺らしていてはいけないのだ。そう思っていても、遠くに司咲の姿を見かけるたびに呼吸が苦しくなる。フラれることを望んだのは奨悟だ。彼女の幸せのために身を引こうと決めた。だけど、世界から色が抜けていくように、彼女がいない世界は何もかもが味気なかった。

せめて、司咲がこの舞台に携わらなければ良かったのにと奨悟は瞳を翳らせた。

好きな人は今もこの劇場のどこかで働いていて、奨悟の手の届く距離にいる。それが逆に辛かった。いっそ、手の届かない雲の上にでも行ってくれれば楽だったのに。

「あ、いた。来夢くん!裕貴(ひろき)くん!ちょっと確認して欲しいんだけど今いいですか!」

肩で息をする彼女はきっと、2人を散々探していたのだろうことが伺える。体力のある彼女がそこまで息を切らすことはあまりないから。

司咲の友人の来夢。そして、先の刀剣乱舞の歌合で出会った笹森裕貴。2人が司咲が取り出して反転させた紙を覗き込んだ。肩が触れそうな距離。奨悟はふいと顔を背けた。まだ湧き上がってくる嫉妬心が彼女を好きだと言っている。胸を引き裂かれそうなほどに、愛した人を諦めるのは簡単じゃないから痛かった。

涙が出そうになって、深呼吸を繰り返していると不意に声をかけられた。

「奨悟さん」

息が止まりそうになった。その声が、ずっと追いかけていた人のものだったから。

顔を上げられずにいると、司咲は奨悟の頬を掴んで顔を上げさせた。

「そんな顔、奨悟さんには似合わない。私は何があったって、ずっと奨悟さんのファンだから。ちゃんと笑ってて」

「…そんなこと言われても。僕はまだ司咲ちゃんが好きだから、無理だよ。芝居じゃないと笑えない」

視線が交わって、奨悟の心臓が脈打った。

「…離して。お願い」

頬を挟まれた手を奨悟は外して、彼女の膝に置いた。

「まだ誰にも言ってないけど、私つばさくんと結婚することにしたの」

奨悟の胸がずきりと痛んだ。彼女の幸せを望んでいたはずなのに、幸せになろうとする彼女が腹立たしかった。気付けば華奢な体を抱きしめていた。嫌がる彼女を力で制して離しはしなかった。

「……だめ」

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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年6月5日 21時

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