覇気 ページ2
奨悟は博喜と焼肉店へ来ていた。日本酒と、ビールと、肉をいくつか注文して、博喜は笑った。
「俺の奢りだから好きなだけ食べな」
「いいんですか？」
「いいよ。早くその失恋から立ち直れ。今の奨悟は覇気がない。そんなんじゃ、舞台衣装のまま街を歩いても誰も奨悟だなんて気付かないよ」
「……監督にも覇気がないって言われました」
覇気がない原因は理解していて、早く立ち直らないといけないのは奨悟も分かっていた。からかいに来た、なんて言う博喜の優しさが嬉しかった。
「ここ、いいお店ですね。司咲ちゃんも連れてきたかったな……」
呟いた言葉は、司咲への未練がまだ残っていて、カッコ悪いけれど吹っ切れていない。
「何がそんなに好きだったの？」
「まっすぐで純粋で優しくて、弱いのにたまに強いところが大好きなんです」
「……へぇ。ま、俺には分からないな」
「分からなくて良いですよ」
注文した肉が次々と届いて、奨悟はそれを網の上に乗せた。少しずつお酒を飲みながら、肉の世話をする奨悟は博喜を恨めしげに見た。
「俺のタイプじゃないし」
「博喜さんはどんな人がいいんですか。司咲ちゃん以上に素敵な人なんてこの世にいるかどうか…」
「いるよ」
博喜はスマホを操作すると、奨悟に画面を見せた。カメラに向かって無邪気に笑う飲食店の制服を着た女性と、嬉しそうな博喜の2ショット写真だった。どことなく司咲に似ている気がする。
「本庄りなちゃん。最近、喫茶店で知り合ってさ。かわいいんだよね。ずっと笑いかけてくれるんだ」
「ただの営業スマイルでは？」
「だとしても、俺の胸を射止めた天使だよ、彼女は」
名前を、聞いたことあるな、と内心首を傾げた。
「急に惚気ですか？フラれたばかりの僕に？」
「……たださぁ。彼女、20歳なんだよね一回りも年上の俺を相手にしてくれると思う？」
「それは絶望的にありえないのでは？一回りって、大学1年生が7歳の子どもに手を出してるのと同じですよ？犯罪みたいです」
「でも、俺も彼女も成人した大人だから犯罪にはならないよ」
「そうですけど…」
「…好きになっちゃったんだから、仕方ないよね？」
「…まあ、そうですね」
なんだか、魂が抜けそうになって、焼いた肉を博喜と自分の皿に均等に分けて奨悟は肉を頬張った。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年6月5日 21時
