映画 ページ10
2人でやってきたのは近くの映画館だった。一度家に戻って、デートらしい服に着替えた司咲はつばさの隣で微笑んだ。大好きな人の隣にいられるなら作品はなんだっていい。
「司咲、何見たい?」
問いかけられて、司咲は悩むように手を顎に添えた。
「つばさくんは?」
「司咲と一緒ならなんでもいい。なんでも楽しい」
「私もなんでもいいわ。…でも、恋愛ものとかがいいかな?デートだし」
「そうだね。チケット買ってくるから、ベンチに座って待ってて」
頷いて、司咲は大人しくベンチに座った。
「絡まれないでね」
「ありえないわよ」
「分からないよ。司咲、かわいいから」
「…心配なら、早く帰ってきて
「うん。すぐ戻ってくるから」
頬を撫でてつばさは背を向けた。本当にすぐ戻ってきたつばさと中に入った。座席に座って、司咲は財布を取り出した。
「半分出す」
「いらないよ」
「でも」
財布をカバンの中に仕舞われて、つばさを見上げた。そっとキスをされて司咲は俯いた。恥ずかしくて赤くなった頬を両手で覆うと、片手をつばさに掴まれた。つばさの膝の上で手を繋がれた。指を絡めて握り返すと、司咲は嬉しそうに笑った。
暗くなり、予告が流れる館内には平日のためかあまり人はいなかった。
「目、閉じて」
「えっ?」
ゆっくりとつばさの顔が近付いてくる気配がして、司咲は目を閉じた。画面が明るいとはいえ、暗い室内はよく見えない。
そっと触れた唇がつばさのものだとすぐに分かって、司咲は求めるようにつばさの頬に手を添えた。少しだけ離れて、またキスをされた。
「熱いね」
頬を撫でられて、そう小声で言われた。司咲はつばさの唇にキスをしようとした。けれど、暗くて少しだけずれてしまった。司咲がキスしたのは彼の顎のよう。
小さく笑った彼は司咲の頬を撫でた。
「唇はここだよ」
そう言って、唇を優しく奪われた。
「…もう、はじまる」
お互いにシートに背中を預けた。つばさの膝の上、手を繋いだまま映画を見た。隣のつばさがずっと手を撫でたり手にキスをしたりしていたから、あまり集中できなかった。
映画は面白かったと思う。けれど、細部までは思い出せなかった。ただ、恥ずかしくて頬を赤くしていた。
「……バカ」
呟いて、プイッとそっぽを向いた。けれど、司咲はつばさの手をぎゅっと握っていた。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時