大好き ページ49
もう帰ろう、そう思って振り返ると予想通り彼らは抱きしめ合っていて、フリーズした。視線を落とした奨悟は恐る恐る押し入れから出た。司咲を守るのも、幸せにできるのも、奨悟じゃない。最初から側にいたのがつばさだったなら、もっと上手く司咲を守ることができたと思うから。
大好きだった。ただ1人、彼女だけしか視界に入らないくらいに。諦めようとしても、無理だったのだ。司咲の涙を拭うのも、司咲を幸せにするのも、奨悟の役目ではない。きっと、つばさなのだ。奨悟と彼女の間に結ばれた縁は運命の赤い糸ではない。もしも、運命ならなんて叶わぬことを考えるのはもうやめにしようと思った。
「…つばささん」
握った拳が悔しさで震えた。こんなに苦しくて悲しくて、悔しいのなら恋なんてしたくないとさえ思ってしまった。
「司咲ちゃんを借りてもいいですか?絶対手は出さないので。少しだけ2人で話をさせてください」
司咲を抱きしめるつばさは、奨悟の瞳の奥に何かを感じ取って、司咲に話しかけた。
「どうする?」
そっと髪を撫でて、頬の涙を拭うと司咲は頷いた。
「俺はドアの外にいるから、話終わったら声かけて」
「はい」
司咲の頬を撫でると、つばさは立ち上がった。ドアの外に出たのを確認して、奨悟は司咲を見つめた。今は弱々しくて、か弱く見えてしまうけれど、凛々しい部分もあって、司咲にしか視えない世界があって、努力家で優しい。そんな彼女に心奪われていた。
「奨悟さん。助けてくれてありがとう」
「司咲ちゃんが無事なら良かった」
そう言って微笑むと、司咲も微笑み返してくれた。嬉しくてかわいくて、切なくなった。
「司咲ちゃん。好きです。僕は司咲ちゃんのことが大好きです」
きっと、答えを聞いてしまえば、奨悟は泣いてしまう。これまではぐらかし続けてきて、その答えを聞くのはやはり辛くて。でも、聞かないと前には進めないと思ったから。
「……言って」
ぎゅっと、司咲の膝に乗せられていた手を握った。また溢れてきた涙が奨悟の手の甲に落ちた。
「…ごめんなさい。私は、奨悟さんとは…付き合えない」
片手で涙を拭いながら、司咲は言葉を続けた。
「…私は、つばさくんが好きなの。……つばさくんと付き合ってるの」
「うん、分かった」
握られた手が離れていった。奨悟を見ると、泣いていて司咲は何も言えなかった。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時