勘違い ページ48
「そうですか。ですが、恋人の家であってもドアを壊すのはどうかと…」
「うるせぇ！いいからりなを返せ！」
「りなさんという方はここにはいません」
「嘘だ！りながこの家に入っていくのを俺は見てんだよ！」
司咲は震える手で引き戸を引こうとした。けれど、奨悟に押さえられた戸はびくともしなかった。男の目的はりなで、司咲ではなかった。
「ここは本庄りなの家だろうが！」
「そんな方はいません」
毅然とそう言い返す奨悟の胸ぐらを、男は掴んだ。
司咲が守るべきは妹だと理解した。妹を守るのは姉の役目だ。
掴みかかられて、手が緩んだ隙に戸が開かれた。
「司咲ちゃん！」
奨悟は男の手を解くと、司咲を抱きしめた。男は懐から刃物を出した。
「奨悟さん！」
司咲を守るように男に背を向けた奨悟。誰かと勘違いしているのだろうと分かっていたけれど、奨悟は司咲を守ることで頭がいっぱいだった。
「りな、一緒に死んでくれ。向こうで一緒になろう」
「…どうして」
「りなが俺とは無理だって言うから！だからさ、向こうで一緒になろう。俺と死んでくれ」
振り下ろされた刃は司咲の頭を狙っていた。奨悟の背中を抱きしめて、少し後ろに下がる司咲はもう無理、と目を閉じた。しばらくしてもなんの痛みもなく、衝撃もなくて司咲は恐る恐る目を開いた。
「司咲！怪我は？」
「……ない！」
刃物を持った男の手はつばさによって止められていた。おかげで司咲も奨悟も怪我はなかった。
奨悟はただ息を殺すように、司咲を抱きしめていた。奨悟と司咲を見て、モヤモヤとした気持ちをぶつけるようにつばさは男を床に押さえつけた。
それからすぐに警察が来て、男は連行されていった。嵐が去ったような静けさの中、つばさが声を発した。
「…で、いつまでそうしてるの？」
ハッとして離れようとする司咲を、奨悟は強く抱きしめた。その温もりを離したくない。
「離して、奨悟さん」
震える声でそう言われて、奨悟は両手を離した。泣きそうな声で言われてしまえば、離さないわけにはいかない。
司咲は奨悟の側を通り過ぎると、つばさの側へ行っていた。頬に触れるつばさが司咲に優しく声をかけていた。奨悟は彼らに背を向けた。
もう、ダメなのだ。司咲の心はもう、奨悟には向かない。司咲の抑えた嗚咽が聞こえてきて、つばさの慰めるような声が聞こえた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年3月16日 12時
