不法侵入 ページ47
そんな司咲を奨悟は後ろから見ていることしかできなかった。好きな人が誰かを想う、なんて嫌だけれどその人が来て司咲が安心するならいい、と思った。けれど、彼女が嬉しそうに誰かを見る姿なんて本当は見たくなくて、胸が潰れそうだった。
そっと近付くと、司咲は震えていた。華奢な肩に触れると、さりげなく逃れようとしていた。無意識なのかどうかは分からないけれど、今の彼女が奨悟を求めていないのは明白で、だから余計に悲しかった。
「僕は、司咲ちゃんの…」
呟いた声は彼女には届かなかった。悩んでいるなら、何かに怯えているなら、奨悟が司咲の助けになりたかった。つばさよりもずっと頼りになるんだと、彼女に思ってほしかった。つばさの名を呼ぶ司咲を背中から抱きしめた。
「大丈夫だよ。……僕が、いるよ」
「……ありがとう。でも、大丈夫よ」
司咲の指が奨悟の腕に触れた。司咲の細い指が触れた場所から熱くなっていく。奨悟の期待を裏切るように、やんわりと腕を解かれて、また悲しくなった。
恋した人の“特別”はもう埋まっていて、それでもやっぱり諦められなくて司咲だけを見つめていた。
ガンッと一際大きな音がして、ドアが開くような音がした。恐怖で青ざめた司咲の手を引いた。押し入れに司咲を押し込んで、引き戸を閉めた。押し入れの前に座って、奨悟は手に汗を握った。
「奨悟さん!危ないから、奨悟さんも隠れて!」
中から引き戸を叩く振動が背中に伝わってきた。
「ダメだよ。司咲ちゃんに何かあったら、僕は…」
きっと正気なんて保っていられない。この恋が叶わないのだとしても、愛した人を守りたかった。好きな人を守れる男になりたかった。
「奨悟さん!」
「今だけは絶対に譲れないよ。司咲ちゃんは大人しく守られてて」
司咲を呼ぶ男の声が聞こえて、恐怖で涙が溢れた。押し入れの中は暗くて、奨悟に守られている自分が情けなかった。
「…静かにしてて」
霊や妖怪に怯えていたのがバカらしくなるくらい、人間の方がずっと怖かった。
「どなたかは知りませんが、どいてもらっていいですか?」
「不法侵入だって、分かっていますか?」
落ち着いた奨悟の声音に、男は眉をピクリと動かした。
「不法侵入?俺とりなは付き合っているんだから、不法侵入にはならないだろ。りなを返せ」
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時