たすけて ページ46
車の免許を持たない司咲はりなの運転する車で帰って来た。大國魂神社で下ろしてもらい、司咲は府中の自宅へと歩き出した。少しだけ自宅に寄りたかった。
もうすっかり暗くなっていて、少しだけ怖くなった。最近は夜に1人で出歩くことはなかったから、余計に。背中に突き刺さる視線が心底嫌だった。
遠回りをする道中、司咲はある人物に出会った。その人は、司咲を見つけて顔を輝かせた。
「司咲ちゃん」
近寄って来た彼から司咲は顔を逸らした。日中、たくさん泣いてしまったから暗がりとはいえ、泣き腫らした目を見られたくなかった。
「…ねぇ、かわいい顔を見せてよ」
奨悟の両手が頬に触れそうな時。カツカツと、わざと大きく立てたであろう足音が近付いて来て後ろを振り向いた。全身に黒を纏った男が司咲をまっすぐ見つめて歩いて来ていた。
司咲は咄嗟に奨悟の手首を掴んで引っ張った。巻き込んでしまって、申し訳ないと思うけれどこのまま置いていってしまえば、彼に危害が及ぶ可能性があった。
「えっ」
彼の嬉しそうな声を無視して、司咲は家への道を走った。どうせ、引き払うのだから家を知られたところで痛くも痒くもないと思ってしまった。
ずっと姿を現さなかった"何か"が急に存在を主張してきたことに恐怖を感じた。
奨悟を引っ張って自宅に立て籠った。荒れた息を整える司咲が背中を預けているドアから大きな音がした。硬い物で硬い物を叩くような音。
奨悟は司咲の腕を引いて、背中に隠した。ドアはそこそこ硬いから、破られる可能性は低いけれど、いざという時に彼女を守れるように。
「…奨悟さん、巻き込んでごめんなさい」
「気にしないで」
「こっち」
司咲は奨悟を家に上げた。こんなことがなければ、奨悟を家に上げることなんてなかった。
「…大丈夫、じゃないよね…」
頬に伸ばされる奨悟の手から逃れるように、司咲はスマホを手にキッチンの方へと向かった。
「……たすけて…」
震える手でスマホを操作すると、電話をかけた。電話の向こうから聞こえる優しい声に懇願した。怖くて、他の誰でもなく、彼に側にいてほしかった。
司咲はキッチンで座り込むと、スマホを握りしめたまま細く長く息を吐き出した。
「……つばさくん…」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 26人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年3月16日 12時
