メルヘン ページ43
基裕がつばさの家に迎えに来てくれたのは午前11時だった。
「基くん、せっかくのお休みなのにごめんね」
「それは全然いいけど…。どこに向かえばいい?」
「えっとね」
司咲は鞄から四つ折りの紙を取り出して基裕に渡した。車の助手席で、住所を声に乗せた。
「えっ?」
司咲から受け取った紙を見ながら、基裕は目を見開いた。聞こえなかった、というよりは驚いているような反応に司咲は首を傾げた。
「…とりあえず行こうか」
そう言って走り出した車はつばさの運転とはまた違った安心感があった。
「私も免許ほしいな」
「お金がもったいないとか言ってたくせに」
「その時はいらないって思ってたんだもん。車の運転、私もしてみたい」
「慣れれば楽しいよ。本当に取るなら俺は応援してやるよ」
「めっちゃ上からじゃん」
「つばさなら全力で応援してくれんじゃねぇの?恋人なんだから」
「うん、多分ね」
「そこは断言してやれよ、かわいそうに。一応、彼氏だろう」
「基くんだって、一応って言ってる」
そう言って、小さく笑った。出会ってからずっと、基裕にはお世話になりっぱなしだ。いつか、恩を返せるだろうかと、ふと思った。
基裕の手が伸びてきて、司咲の髪を撫でた。
「司咲は、もう俺がいなくても笑えているんだよな」
「…うん。基くんのおかげ。ありがとう」
「俺は何もしてないけどね」
「何言ってるの。基くんがいなかったら、私は生きていられなかっただろうし、生きていたとしても、きっと真っ当には生きられなかった。基くんが助けてくれなかったら、今の私はいないんだから」
「……もしかしたら、それも運命、なのかも」
司咲は目をぱちくりと瞬かせて、首を傾げた。
「どうしたの?メルヘンチックなこと言って。基くんらしくないわ」
「うるせー。着いたら分かる」
「どういうこと?」
「俺もよく分からない。着いたら、全て分かる。まだ想像の域を出ないから、今は言わねー」
「なにそれ、よく分からない」
「だから、着いたら分かるっての」
基裕の運転する車が大きな家の敷地に入って行った。ずっと前に一度だけ来た、祖母の家。あの頃はまだつばさを遠ざけようとしていた頃だ。
車が止まって、司咲と基裕は車を降りた。大きな日本家屋のインターホンを躊躇いなく押した。出てきた人物に、司咲は目を見開いた。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時