火 ページ4
「司咲！」
少しだけうたた寝をはじめた司咲を呼ぶ声があった。やっと来た。ずっと待っていた。観光は彼と一緒が良かった。
振り向いた司咲は立ち上がると、駆け出した。誰も入り込めない。今、司咲の心の中にいる人はつばさだけだった。腕を広げたつばさに飛び込んだ司咲は軽々と持ち上げられて、微笑んだ。つばさの顔が下にあって、少しだけ新鮮だった。いつもは見上げてばかりだったから。
涙が溢れて、頬を濡らした。数日会わなかっただけなのだが、もう何年も会っていないような気がした。
「泣き虫」
つばさの手が司咲の目元を拭った。つばさの肩に置いた司咲の両手が首に回された。
「待たせてごめんね」
髪を撫でて、短くキスをされた。唇が触れる感触が久しぶりで、泣きながら笑った。
ストン、と地面に降ろされた。頬に触れた優しい手が嬉しかった。ゆっくりと顔が近付いてきて、司咲はゆっくりと目を閉じた。頬に口付けて、離された。
「…むぅ」
唇にキスをされると思ったから、少しだけ頬を膨らませるとつばさは優しく微笑んだ。
「唇は2人きりになってからね」
「…分かった」
ぶぅ、と頬を膨らませたままそう言う司咲がかわいくて、髪を撫でた。今、つばさが炎上騒ぎを起こすわけにはいかないのだ。だから、しばらく会えなかった。
2人でベンチに腰かけると、そっとバレないように手を繋いだ。
「寂しかった。会いたかった。何してたのよ、バカ」
「ごめんね。俺も会いたかったし、寂しかったよ」
「じゃあ、どうして電話してくるなって言ったの」
フグみたいだと思った。頬を膨らませて拗ねる司咲を抱きしめてしまいたい。
「奨悟の起こした火を消していたんだ」
「火？」
首を傾げる司咲につばさは微笑むとスマホを取り出した。それを操作すると、一枚の写真を見せてきた。それは、司咲が奨悟にキスをされた時のものだった。つばさを怒らせた発端だった。
「この写真でネットが大騒ぎしてたから、鎮火させてた。奨悟のためじゃない。司咲のために」
「……私？」
「この写真が出回って、奨悟の彼女だと誰もが思うはず。まあ、俺としてはこの写真が出回ること自体すごく嫌なんだけど」
「ふふ。……うん」
「まあ、そうなると奨悟とキスしてるこの人は誰だ、ってなるのは自然なんだよ。そういう人たちって、どうしてか突き止めるんだよ」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年3月16日 12時
