恋敵 ページ30
偶然見かけた司咲は誰かを待っていた。スマホで誰かと連絡を取り合っていた。その誰かは、1人しかいない。司咲の心が向いている人。そっと近付くと、嬉しそうに頬を緩めていた。遠目では表情までは分からなかった。
悔しくて悲しくて、腕を掴んだ。
「……奨悟さん」
驚いたような司咲の声が聞こえて、奨悟は苦しくなった。
「………つばささん、待ってるの？」
「うん。迎えに行くから待っててって言うから」
「……行かないでよ」
「……奨悟さん。私、つばさくんと付き合っ……」
「聞きたくない」
口を手で塞がれて、それ以上は言葉にならなかった。
「司咲ちゃんが好き！……僕じゃダメ？」
司咲は何も言わずに掴まれた腕を引いて奨悟の手から逃れた。
「ごめんなさい」
目を見て、謝られた。また口を開く司咲の唇に人差し指を当てて、その先の言葉を封じた。聞きたくない。彼女の口からつばさを想う言葉など、酷なのだ。
「…大好き。……もう遅いって分かってるけど、諦めたくない。司咲ちゃんが大好きだよ」
指が顎に触れて、頬に触れた。奨悟は一歩司咲に近付くと下がろうとする彼女の腕を捕まえて、唇にキスをした。抵抗しようとした腕を掴まれてなす術もなく。
不意に、強く肩を引かれて奨悟の腕から逃れた。
「…浮気？」
耳元で囁かれた声は低くて、怒っていた。
「違う！」
振り向いて、つばさの胸に縋った。
早く司咲に会いたくて急いで来たのに、見せられたのは恋敵とのキスで傷ついた。
「…ごめんなさい」
「奨悟、どういうつもり？」
司咲の髪を撫でて背中に隠すと、つばさは奨悟を睨みつけた。彼女が進んで奨悟とキスをしたなんて考えられない。
「……司咲ちゃんが、好きなんです」
「知ってるよ」
「……意識、してほしくて。男として見てほしくて。…すみません」
「……司咲はもう、俺の…」
「知ってます！……どんなに手を伸ばしたって、司咲ちゃんはもう手に入らない」
奨悟の瞳が司咲を見つめた。つばさの背中に隠された彼女は俯いていた。肩が震えていて、泣いているのかもしれない。司咲の手がつばさの背中に触れていて、胸が軋んだ。
「……分かってるけど、諦められない…」
奨悟の泣きそうな声が聞こえて、司咲は胸が苦しくなった。司咲がつばさと付き合ったことで、傷つく人がいた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年3月16日 12時
