悩み ページ25
空になった湯呑みを取られ、司咲はつばさに頬を包まれた。
「言わないとキスする」
脅しにもなっていないような言葉。司咲は目を瞬かせるとゆっくり閉じた。話す気がないと言われているようで悲しかった。
「司咲」
肩を掴むと、体を離した。愛した人のために何だってしてあげたいのに、怯えている理由を教えてもらわないと何もできない。
「俺じゃ頼りない?司咲の悩みの一つや二つ、受け止めてみせるのに…」
悲しみを帯びた瞳と目が合った。
「…そういうわけじゃ…」
俯いた司咲をつばさは抱きしめた。
「俺に助けてほしいから、ここに来たんじゃないの?抱きついてくれたんじゃないの?」
司咲はつばさの背中に腕を回して抱きついた。
「俺は司咲が困っているなら力になりたいし、助けたいんだよ。司咲を愛しているから」
「……何も言わないんじゃないの。私にも分からないから、何も言えなくて…」
司咲の瞳から溢れる雫がつばさの服に染み込んでいった。髪を撫でるつばさの手が優しすぎて、余計に涙が溢れた。
「おばけとか妖怪の類ではなくて、人だってことは分かるのよ。…でも、気にしすぎの気のせいっていう可能性もあるし…」
「うん」
つばさは震える司咲の頭と背中に手を添えて、しっかりと抱きしめ直した。
「…外に出ると、ずっと視線を感じるの。振り返っても誰もいなくて…。だから、怖くて…」
つばさの肩に顔を埋めると、司咲は彼の背中の服を掴んだ。
「…だから、こんな時間になっちゃった」
司咲がつばさに『家に行く』と連絡したのは午後6時。今は深夜11時を回ったところだ。
「とりあえず、司咲が無事で良かった」
「……ねぇ。怒らないでね」
「内容によるかな」
「帰りに、偶然……奨悟さんに会ったのよ。…心配、かけちゃった」
司咲は左手でつばさの手に触れた。するりと手を繋がれて司咲はつばさの肩に頭を預けた。
「…奨悟さんが駅まで送ってくれなかったら、私…動けなくなっていたから。本当に助かった」
「……そっか」
つばさは手を離すと、司咲の頬に手を添えてキスをした。驚く司咲の後頭部を押さえて、つばさは唇を重ねながら襟を少しずらした。そこにあったはずの証が消えていた。
「……何もされてない?」
襟から手を離して、司咲の頬に触れると彼女は顔を真っ赤に染めて頷いた。
26人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時