震え ページ24
「ダメ。外だし、つばさくんが嫉妬するから」
駅の改札まで送ってもらった。
「ありがとう、奨悟さん」
礼を言って背を向ける司咲の手を奨悟は咄嗟に掴んだ。右手の薬指についている指輪の固い感触がひんやりと奨悟の手に触れた。振り返った司咲の驚いたような表情が瞳に映った。
誰のものでもなかった司咲がつばさの彼女になった。悲しくて、悔しくて、でもやっぱり奨悟は司咲が好きだった。
「……好き。司咲ちゃんが、好き。…どうしてつばささんなの？ずっと嫌っていたのに」
司咲は奨悟の手を離して、困ったように笑った。
「ああ、言わないで！…やっぱり、いい」
「奨悟さん、潔くフラれてよ」
「嫌だよ。またね」
べっと舌を出して奨悟は去って行った。去り際に撫でられた髪。ふぅ、と小さくため息をついた。
司咲は1人にはなりたくなくて、つばさの家に向かった。奨悟のおかげでなんとか歩けるようにはなったけれど、まだ怖い。それがなんなのか分からなくて、『大丈夫』としか言いようがないのだ。
つばさに連絡すると、仕事で少し遅くなるから先に入っていてほしいとメッセージが入った。
合鍵がここにきて役に立つ。ただ純粋に嬉しかった。視線の人を撒くようにかなり遠回りをした。立ち止まって振り返っても、人影はなくてまた恐ろしくて体が震えてきた。
早くつばさに会いたくて、走った。その人は走ってまでは追いかけてこないらしい。ホッと息をついてつばさの家に直行した。
「遅かったね。…何度も電話したのに」
「えっ？」
スマホを確認すると、何通か通話がきていた。
「本当だ…。ごめんなさい」
「司咲を探しに行くところだったから、入れ違いにならなくて良かった」
靴を脱いで家に上がった。そっとキスをされて、やっと安心した。
「…何かあった？」
体が震えていることに気付いてか、優しく問いかけられた。司咲はその体に抱きついた。まだ小刻みに震える体を抱きしめ返されて、泣きそうになった。
「……ちょっと、迷っただけよ」
「嘘だよ。ちょっと迷ったくらいでこんなに震えたりしないでしょ」
つばさは司咲の体を抱えると、リビングのソファに下ろした。両手に温かいお茶の入った湯呑みを握らせた。
「ありがとう」
それをゆっくり飲んだ司咲はやっとつばさを見上げた。
「何があったの？」
「……えっと….」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 26人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年3月16日 12時
