駅まで ページ23
霊や妖怪といった、視えるものよりも見えない悪意の方が恐ろしいなんて、はじめて知った。人の怖さをはじめて痛感した。
ふと、立ち止まった。前に進めなくなって、1人でいるのが怖くなって右手薬指をぎゅっと握った。
つばさとおそろいの指輪。ガタガタと震える足を軽く叩くが震えは治まってくれなかった。
「……司咲ちゃん?」
不意に声をかけられた。目の前に回り込まれて、手首と頬に触れられた。真っ青な司咲の顔を見て、彼は心配してくれていた。
「どうしたの?…震えてる」
「……大…丈夫」
「そんなわけ…」
奨悟は司咲を抱きしめようとして、胸を押されて拒否された。それが悲しくて、でも好きな人を守りたくて髪を撫でた。
「…送る。……それもダメ?」
もう脈がないことはとうに分かっている。彼女が誰を見ているのかも。それでもどうしても諦めきれなくて、震える手を両手で握った。何かに怯えている彼女を奨悟が助けてあげたかった。
「…あ、りがとう…」
司咲は握られた手をやんわりと外した。
「…駅まで、お願いしてもいい?」
パッと輝いた奨悟の表情。頷いた奨悟は司咲と共に歩き出した。
「…ごめんね、司咲ちゃん」
謝ってきた奨悟は司咲を見つめた。
「SNSで、僕と司咲ちゃんの炎上騒ぎがあったでしょ。つばささんが協力してくれてすぐに鎮火できたけど…」
司咲と目は合わない。その横顔はいつも通りの表情をしていた。
「でも、一瞬でも司咲ちゃんの恋人になれたような気がして…嬉しかった。最低だよね。……でも大好きなんだ」
「…私」
「分かってる。言わないで。…フラないで」
やっと目が合った。奨悟の胸がキュンと締め付けられて、苦しくなった。叶わない想いだと分かっているのに、どうしても諦められない。
「…今はフラないで。その前に、司咲ちゃんが何に困っているのか教えて。…力になりたい」
司咲は奨悟から目を逸らした。感じている違和感を話してしまえば、駅までではなく家まで送られてしまうかもしれない。家が知られるのが嫌なわけではないけれど、ただ巻き込みたくないだけなのだ。
「……大丈夫よ。なんともないわ」
笑って見せた。本当は大丈夫なんかじゃなくて、怖くて仕方がないけれど、奨悟に助けを求めるわけにはいかないのだ。
「…少しだけ手を繋いでもいい?」
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時