アルバム ページ22
「…変?」
「うん。…よく分からなかったけど、なんのために、ってずっと呟いていたの」
りなが分からないと言う、その言動を司咲が理解できるわけもない。ただ手に汗を握りながらりなの言葉を聞いた。
「お父さんのお葬式が終わって、お母さん口数が減っちゃって。お父さんを失ったショックなのかなって思ってたけど、それだけじゃなかった。……半年、くらいかな。…偶然見つけたの」
そう言って、りなは司咲にスマホの画面を見せてくれた。写っていたのは一冊のアルバムだった。そんなに大きなものではなくて、ただ表紙には『司咲の記録』と書いてあった。
「お母さん、すっごく大事にしまっていて。これは何、って聞いたの。そしたら……私たちの前で泣いたことないお母さんがこれを見て泣いたの。…泣いて、私とお兄ちゃんを抱きしめて全部話してくれた」
「……お母さん」
りなにスマホを返した。泣きそうになって、俯いた。震えていた手はいつの間にか治まっていた。
「お兄ちゃんも、ずっとお姉ちゃんのこと探しているの。ちゃんとお姉ちゃんと家族になりたい」
希薄なものだった。家族なんて、親に捨てられた司咲には分からなくて、だからこそ苦しかった。テーブルの上に雫が滴り落ちた。
「お姉ちゃんと、お母さんと、お兄ちゃんと、私。4人でご飯が食べたい。一緒にテレビを見たり、笑ったり。そんな普通の家族になりたいの」
カタンと音がしたと思ったら、りなが隣に来ていて司咲を抱きしめていた。その腕が優しくて、暖かくて、司咲は泣いた。
ずっと家族がいる人が羨ましかった。親に捨てられたことが悲しくて、寂しかった。こうして妹に会えたことが嬉しくて、同時に苦しかった。司咲だけが捨てられた理由を聞きたい。でも、聞くのはとても怖いと思った。
母の愛を近くに感じられなくても、信じることができていたのは、司咲は一人っ子だと思い込んでいたから。弟妹たちがいたなんて夢にも思わなかった。
妹を前に、何も言えなくて、司咲はただぼろぼろと涙を流した。
「……ありがとう」
涙を拭いて司咲はりなを抱きしめた。細くて小さいりなはまるで小動物みたいでかわいかった。司咲も、もう少しかわいくなりたかった、なんてどうしようもないことを考えた。
その日はそのまま別れて、司咲は帰路に着いた。喫茶店を出ると、また視線が突き刺さった。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時