妹 ページ20
2週間が経ったある日のこと。仕事終わりに博喜と一緒に行った喫茶店へ向かった。道中に感じる視線が不愉快だった。それは人で、妖怪や幽霊といった類のものではない。特に理由が分からず、だからこそ不愉快極まりなかった。つばさに相談すべきだろうかと何度も思ったが、不確かであやふやな情報のままでは何も言えない。つばさも仕事が忙しいから、迷惑はかけたくないのだ。
少しだけ止まって振り向いてみるが、やはりそれらしい人影は見つけられなかった。
諦めて喫茶店に入店すると、出迎えてくれたのは男性の店員だった。
「いらっしゃいませ。1名様ですか？」
「はい。…あの、本庄りなという方はいらっしゃいますか？」
「……ええ。呼んで参りましょうか？」
「……ご迷惑ではないですか？」
「大丈夫ですよ。少々お待ちください」
そう言って彼は司咲を席に案内してから、りなに声をかけに行った。遠くに見えるのは、間違いなくあの日の店員だった。司咲が来たことを知り、目を見開いて驚くと男性店員に頭を下げてこちらへ来た。
「…お姉ちゃん、来てくれたんだ…」
りなは司咲の向かいに座ると嬉しそうに笑った。
「…えっと。仕事は？大丈夫？」
「もう上がりだから大丈夫。お姉ちゃん、グッドタイミングだよ」
「……そう」
親指を立てるりなとどう接すればいいのか分からなくて、司咲は目を泳がせた。
「…お姉ちゃん。…りなって呼んで」
「……りな」
妹の名前をそっと声に乗せると、りなは嬉しそうに笑うから、司咲も釣られるように笑顔になった。
「りなはいくつ？」
「20歳。お姉ちゃんは26歳だよね？」
「……うん。…あ、何か食べる？」
「うん。…あ、このクッキーおいしいよ。店長の手作りで形もとってもかわいいからおすすめ」
りなと司咲はクッキーと飲み物を頼んだ。
「お姉ちゃん、制服だけ脱いでくるね」
「ああ、そうね。行ってきて」
笑顔で手を振った。彼女の背中が見えなくなって、手を下ろした。会話なんてそんなにしていないのに、疲れてしまった。
「お待たせいたしました」
クッキーと飲み物が届いた。司咲は紅茶、りなはミルクティーだ。
何をどう聞けばいいのかわからない。6歳も年下の妹に何を話せばいいのかもわからない。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年3月16日 12時
