電話 ページ17
夜道を司咲は瑞稀と朱音と別れて歩いていた。疲れてしまった。心が忙しなく飛び跳ねて居た堪れなかった。逃げようとすればすかさず捕まった。
イヤホンで音楽を聴く気にはなれずに、歩いているとふと視線を感じて振り返った。妖怪や幽霊はいるけれど、そういった類の視線ではなかった気がする。少し周囲の気を読んでみたが、特に異常は感じられなくてそのまま家へ帰った。
気のせいかもしれないと、あまり気にはしていなかった。
お風呂に入り、髪を拭いているとスマホが鳴った。見ると、相手はつばさだった。
「もしもし？」
『ごめん、今日は連絡しないつもりだったけど…』
「珍しいわね。つばさくんが遠慮なんて」
『声聞いたら会いたくなるから…』
電話の向こうの声に司咲は笑った。さっきまで感じていた違和感はどこかへと消え去った。
「時間的に今日はダメね」
司咲は違和感をつばさには話さなかった。不確かなものを彼に話して余計な不安を煽るのは嫌だった。
『うん。でも、声だけ聞きたかった』
「…バーカ」
『…照れてる？』
「照れてないわよ、バカ‼︎」
真っ赤な顔で否定する彼女の言葉を誰が信じるだろう。けれど、つばさに司咲の顔は見えていないから誤魔化し切れると思ったけれど、ダメだったよう。やはり、瑞稀が言うように司咲は分かりやすいのだろうか。
『司咲。楽しかった？先輩たちとのデートは』
「うん。…でも、疲れた。最初から最後まで翻弄されたわ」
『仲良いよね。少し羨ましい』
「どうして？」
『女同士でしか見せない顔ってのがあるでしょ？それを俺は知ることができないから』
「…欲張り」
『司咲のことはなんだって知りたいの』
「ふふ。でも、ダメよ。瑞稀先輩と朱音先輩との間につばさくんは入れてあげない」
『えー』
「それぞれに彼氏がいたら、文句でも言いながらお茶飲んでるのかな」
そんな空想の話。実現するかどうかはわからない。
『司咲、俺に文句あるの？』
「ん？ないよ。今はね。でも、付き合っていれば必ず出てくるでしょ」
『あぁ…。そうだね。ねぇ、司咲。出来るだけ直すから、嫌なことあったら言ってね。溜め込まないで』
「うん。つばさくんもね」
『…そろそろ寝ようか』
「うん。そうね。眠くなってきた」
『おやすみ、司咲。愛してるよ』
頬がうっすらと赤く染まった。
「お……やすみ」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年3月16日 12時
