彼氏 ページ11
「つばさくん、誕生日いつだっけ?」
「ん?11月3日だよ」
「私は」
「5月31日でしょ?」
司咲は目を見開いて、目の前の笑顔を見つめた。
「覚えてたの?」
「当たり前。好きな人の誕生日、忘れるわけないよ」
「……そう」
「俺は司咲に忘れられていたことの方がショックなんだけど」
「ごめんなさい。つばさくんに興味なかったものだから」
「今は?」
「…大好き」
俯いた司咲の髪を撫でた。場所は、全国にチェーン展開する有名なファミレスのボックス席。少し遅めの昼食を食べると、歓談タイムに入った。
「司咲、こっちきて」
つばさは隣をとんとん、と叩いた。大人しくつばさの隣に座る司咲の髪を優しく撫でた。
出会った時よりも随分と伸びた髪はそろそろ腰に到達しようとしていた。
「髪伸びたね」
「うん。切ろうかなって思ってるけど」
「切っちゃうの?もったいない」
「思い切ってショートにしようかしら」
「えー」
不満そうなつばさを見上げた司咲は、ふいと目を逸らした。
「……何よ」
「…急にドライ。…切っちゃうの?」
司咲は少しだけ考えた。
「…分からないわ」
「俺は司咲の長い髪好きなんだけど」
髪にキスをするつばさをぐいっと押し返した。
「も、もう!」
「かわいい」
プイッとそっぽを向いた司咲を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。
「ちょっと…!こんなの見られたらつばさくんのファンに殺される!ここ、死角じゃないんだから!」
暴れてつばさの腕から逃れた司咲はおずおずと手を伸ばして、手を繋いだ。
「かわいい」
ただ手を繋いだまま、司咲はつばさから目を逸らした。つばさはそんな司咲の手を優しく握り返した。
「私、行きたいところあるんだけどいい?」
「うん。どこ?」
「…アクセサリーショップ?みたいな…。彼氏、いるしひとつくらい持っておいてもいいかなって」
「かわいい。いいよ、行こう」
日に日に可愛くなる司咲が愛おしくて仕方がない。何より、司咲の口から『彼氏』という単語が出てきたことが言葉にできないほどに嬉しかった。恋人だと思っているのはつばさだけではないのだと実感することができて、嬉しかった。つばさのために可愛くなろうとする彼女はそれだけでも、かわいかった。今すぐに抱きしめたかったけれど、我慢した。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時