音沙汰なし ページ1
3日経っても、つばさからの返事は何もなかった。あれ以来何の音沙汰もなく、司咲は晴明の下で陰陽道を学んでいた。慣れろ、と言われてずっと側には強面の妖怪がいる。彼と握手を交わすのが最大の課題だった。教えられた術や知識はすぐに覚えられたのに、どうしても彼の手には触れられなかった。
善なのか、悪なのかは分かる。その妖怪が悪いものでないことは分かるから、あとは司咲の勇気次第なのだ。
『素質はある。お主に足りないのは一歩を踏み出す力。…話をしてみると、案外とっつきやすい奴らだっているよ』
ふぅ、と深く息を吐き出した。妖怪と離れた距離は短いような、少しだけ長いような曖昧な距離。緊張で心臓が強く脈打った。恐怖で冷えた手は小さく震えていて、こんな時いつもだったらつばさが握ってくれていたのに、なんて余計なことを考えた。
「わっ!」
小さな石に躓いて、司咲は勢いよく前に足を出した。転ぶと身構えた先。司咲は妖怪に抱き止められていた。
「わ、ごめんなさい!」
司咲は顔面蒼白で妖怪から離れた。晴明はそんな司咲を見て、喉の奥で楽しそうに笑った。
無言で差し出された妖怪の手に司咲は恐る恐る手を重ねた。握られた手はやはり温度はなくて、とても恐ろしかった。
『きっと強くなれる』
そう言って強面の妖怪が笑った。
「…ありがとう」
司咲はそう言って、小さく笑った。
『次は使役術の習得だ』
次から次へと移ろっていく。丸2日、朝から晩までみっちり鍛えられて司咲は目を回しそうだった。司咲の霊力も底なしというわけではないから、消耗した分だけ、『疲労』という形で返ってくる。
『……少し休もう』
「いえ、大丈夫です」
『陰陽道は3日やそこらで習得できるものではない。焦るな。ゆっくり身につけていけばいい』
「……はい」
すとん、とベンチに座った。スマホを取り出すが、通知は何もなくてまたポケットに放り込んだ。
『連絡は?』
「ないです。音沙汰なしです」
連絡がないのが、つばさの怒りの度合いを示しているようだった。ため息をついて、司咲は立ち上がった。
『…お茶でもどうですか?私奢りますから』
「他の人間を驚かせることになるから1人で行っておいで」
「……やっぱり、そうですよね。すぐ帰ります」
司咲は影を背負いながら、晴明神社を後にした。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時