生きているうちに ページ50
「私、あの人が笑顔で元気に生きてくれるならそれでいいんです。例えこの命が消えたとしても、あの人が幸せそうに笑う世界ならいい世界だと思えるから」
震える手に晴明の手が触れた。
『でも、彼はお主を失ったら後を追いそうだ』
司咲の両手を開いた晴明は、爪の跡の残る手のひらを優しく包み込んだ。
司咲は小さく笑った。
「そうでしょうね。どうしようもない人。私がいないとあの人は生きていけないみたいですから」
『愛されている証拠だな。大事にしな』
「……はい。まずは仲直りしないとですけど」
涙を拭った司咲に晴明は優しく微笑んだ。
『…妻を思い出す』
「晴明様の奥様？」
『ああ。病でな、若くして命を落としたんだが…。私は妻を愛していた』
「晴明様に愛されて、その人はきっと幸せだったと思いますよ」
『ああ。幸せだったと思う。ただ、短すぎた』
晴明は司咲の髪を撫でた。
『生きているうちに、ちゃんと想いを伝え合うんだよ。失ってから後悔しても遅い。……お主はよく分かっておると思うが』
「……はい」
司咲は晴明に一言断ってから、スマホを取り出して電話をかけた。相手はもちろん、つばさだ。泣いていたけれど、どうでも良かった。とりあえず、謝りたかった。彼に好きだと伝えたかった。
だけどやはり、電話は通じなかった。スマホを仕舞おうとした時、一通のメッセージが届いた。
『しばらく電話しないで』
突き放すような言葉が胸に深く深く突き刺さった。嫌われてしまったのだと、思った。彼を失ったら、どうやって生きていけばいいのか分からなくて、頭の中も目の前も、真っ白になった。
「……やだ。やだよ…。嫌わないで…。つばさくん…」
傍から見たら、ベンチに座って1人で号泣している痛い女にしか見えないだろう。次から次へと頬を濡らす涙を司咲に止める術はなかった。
すごく大好きな人。しつこい程に言い寄られて、司咲が好きになったら離れていくのだろうか。そんなの、嫌だった。今すぐ声が聞きたくて、そんなメッセージは無視して電話をかけた。すぐに切られた。一昨日の夜、司咲も同じことをつばさにした。
胸が痛くて、苦しかった。
『ごめんなさい』
ただ一言、司咲はつばさにメッセージを送った。そのメッセージに返信はなかった。それが辛くてまた涙を流した。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年2月16日 13時
